九州自然歩道を週末に歩き倒す

目標は九州自然歩道の総延長2932km踏破。

九州自然歩道 福岡県行程(復路)総括

九州自然歩道福岡県エリア(復路)

福岡県築上郡上毛町大平山~北九州市八幡東区皿倉山

 2021年9月18日~2021年10月9日活動

 活動日数 8日

 歩行距離141.2km

 269542歩

 

 2019年8月31日に福岡県北九州市八幡東区皿倉山をスタートした九州自然歩道トレッキング。九州をグルリと反時計回りに1周するのだが、福岡県を出発して、佐賀県長崎県熊本県、鹿児島県、宮崎県、大分県と歩き、ふたたび福岡県を北上して起点の北九州市八幡東区皿倉山でゴールとなる。

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 今回の福岡県エリア(復路)は、(1)大分県との県境の大平山から犬ヶ岳を経て英彦山までの修験道の道、(2)英彦山を起点として田川郡、築上郡ののんびりとした田舎道からカルスト台地に至るまでの道、(3)福智山、尺岳、帆柱山皿倉山と続く福知山山系を歩く道の3つのパートに分けられる。

 

(1) 修験道の道(大平山~犬ヶ岳英彦山

 公共交通機関でのアプローチが容易な、奇岩で知られる大分県中津市耶馬溪の青の洞門をスタートして、舗装された林道を西に上り詰めた大平山(597m)が大分県と福岡県の県境となる。

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中津市耶馬溪町の青の洞門。ここはまだ大分県

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耶馬溪町山国川にかかる耶馬渓橋。ここから大平山への林道に進む。

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大平山の山頂から福岡県コースがスタート

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これが福岡県復路No.1の道標

 ここから県境の稜線を歩きはじめる。九州自然歩道のこのあたりは2019年前後に再整備事業が行われたようで、山道の整備状況はかなり良好で、ときおり真新しい道標が出てきてビックリする。稜線に作られた広い防火帯の道を進んで、まずは瓦岳(624m)、次いで雁股山(807m)、経読岳(992m)へと進む。大平山から経読岳までのおよそ20kmの稜線は補給地はまったくなく、水場(谷川の水)も経読岳近くの谷までないので、食料と水は十分に用意が要る。

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令和2年度に福岡県の九州自然歩道再整備事業が実施されている

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こんなピカピカの説明板

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山中にこんなきれいな山道が出てくると面食らうが、これは防火帯でもあるため。

 経読岳から犬ヶ岳(1130m)のあいだには笈吊(おいづる)峠という鎖場がある。なかなかの難所であるが、迂回路も設定してあるので心配は要らない。この峠を乗り越えた先には犬ヶ岳の頂上。眺望は非常に素晴らしい。

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笈吊峠はこの岩場を真っ直ぐ登る

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犬ヶ岳山頂の避難小屋

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犬ヶ岳山頂からの眺望は素晴らしい

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 犬ヶ岳から5kmほど山道を西に歩く。この山道が素晴らしく、厳かな霊気まで漂う。古くからの修験道の道で、多くの人に踏み固められており、道標は乏しいものの迷うことはない。時折鎖場が現れ、かつての修行の地であったことがうかがわれる。山道の終点は、国道500号線野峠となる。

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犬ヶ岳から野峠まで修験者の足で踏み固められた道が続く

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ところどころに鎖場も

 野峠からは国道を西に4.5kmほど歩くと、英彦山の登山口の1つである豊前坊に到着する。ここには高住神社があり、その駐車場には飲料水の自販機があるので補給可能。

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野峠から豊前坊までの5kmは国道500号線を歩く

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豊前坊の高住神社

 豊前坊からは望雲台という岩場を経て、ブナの森を通って、英彦山北岳英彦山上宮、英彦山南岳と歩く。そのまま英彦山神社に下ることもできるし、鬼杉、大南神社などに立ち寄ることも可能。

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豊前坊から英彦山北岳にはブナの森を通る

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途中で立ち寄り可能な望雲台は絶景スポット

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望雲台から見える鷹の巣山も登ってみたい山

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英彦山上宮

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英彦山南岳

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南岳から鬼杉方面は鎖場あり

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大南神社

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英彦山神社奉幣殿

 英彦山近辺にはキャンプ場や民宿、ホテルもある。ただし、大平山から豊前坊の間には宿泊地はなく、交通機関もないので、通して歩くならば1~2泊のテント泊は不可避。補給にも注意がいる。

(2) 英彦山からカルスト台地までの道(英彦山~源じいの森~平尾台

 英彦山神社の鳥居の下の別所交差点を起点として、のんびりとした田舎道を楽しむ。

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英彦山神社の鳥居

 道標を頼りに、坂本、宮元集落と進み、添田町の油木ダムへと進む。この先は少し道の荒れたところがあるが、迫田、田代、平山の集落を経て、残りはほぼ舗装路歩きで源じいの森に出る。源じいの森にはキャンプ場、温泉、宿泊施設、鉄道の駅がある。

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北坂本から宮元には水害の痕跡の残るところも

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宮元集落で見つけたミステリーサークル

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油木ダム

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源じいの森には温泉、宿泊、食事、商店

 源じいの森からさらに見取、田峯集落を経て大阪山に登る。大阪山にはあまり眺望はないが、300mほど西に進んだ薬師の頭の眺望が素晴らしいので、ここには進んでみるべき。筑豊の炭鉱地帯が一望できるビューポイント。

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見取、田峯集落と、のんびりとした田舎道を進む

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県道204号線から大阪山に取り付く

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大阪山の山頂にはアンテナが立つが、眺望は今ひとつ

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ほんの少し寄り道をした薬師の頭の眺望は最高

 大阪山から北に下ると呉ダム。呉からは新仲哀トンネルを通ってみやこ町に出る。みやこ町では補給が可能で、さらには内部に立ち入ることができる古墳もある。

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大阪山から下ると呉ダム

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現在のコースは新仲哀トンネルの一択

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コース途中の綾塚古墳

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ちょっと寄り道、橘塚古墳

 そして、御清水が池、入覚集落を経て、平尾台カルスト台地に上る。平尾台の南端には千仏鍾乳洞という900mほども入ることができる鍾乳洞があるので、時間があればぜひ立ち寄ってもらいたい。ただし、膝下までは水浸しになるので、それなりの覚悟がいる。

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御清水が池

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入覚集落から平尾台への山道に進む

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平尾台への山道では、採掘された石灰岩を運ぶコンベアの下を通過

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平尾台日本三大カルスト台地

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千仏鍾乳洞もお勧め

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ズボンがビショビショになるが

 日本三大カルスト台地の1つである平尾台は、とくに夕景が言葉にならないほどの美しさ。秋のススキの時期はいつまで眺めていても立ち去りがたい。夕暮れの美しさを堪能してから、吹上峠を下って、北九州市小倉南区石原町駅まで出れば、JR日豊線に乗って20分ほどで小倉。ホテルはいくらでも確保できる。

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(3) 福知山山系を歩く(平尾台~福智山~皿倉山

 JR日豊線石原町駅をスタートして、のどかな風景の道原集落を経て、鱒淵ダムに進む。ダムからは登山道に入る。

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石原町から櫨ヶ峠トンネルを越える

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道原集落は、The田園

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鱒淵ダムの自転車用の通路。これ、絶対無駄。

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鱒淵ダム

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ダムの赤い吊り橋を渡って上流に進む

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ダムの最上流から福智山登山道が始まる

 最初のピークは山系の最高峰の福智山(900m)。360°のすばらしい眺望が得られる秀峰で、いつも登山客で賑わう人気の山。頂上から北に下ったところには避難小屋と水場がある。

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福智山

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山頂からの眺めは素晴らしい

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山頂から北に下ると避難小屋と水場

 福智山からはひたすら北に進む。登山道の整備状況は良好。5kmほどで次のピークの尺岳(808m)。頂上のすぐ南の尺岳平には大きな屋根の四阿がある。

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福知山山系の縦走路は整備状況がいい

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尺岳頂上

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尺岳平の四阿

 尺岳から音滝山(416m)、白畑山(449m)、建郷山(451m)といった小ピークを経て市ノ瀬峠(299m)へと進む。

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尺岳から北も快適な道が続く

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小さなピークをいくつも超える

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市ノ瀬

 ここからは急な勾配をひと踏ん張りして権現山(617m)のアンテナを通過して、九州自然歩道の起点の碑の建つ皿倉山(622m)の山頂に至る。

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市ノ瀬峠からは急勾配

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権現山のアンテナ

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皿倉山

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皿倉山頂上

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九州自然歩道起点

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頂上からは北九州市全体を見渡せる

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皿倉山山頂近くまでケーブルカーがある

 JR石原町駅から皿倉山までは30kmを越える。頑張れば1日で歩くこともできるが、眺望を楽しみながら、福智山、尺岳あたりで野営しつつ進むのも楽しい。

 

もう一度歩きたい福岡県の道

 

 スタート地点、ゴール地点のいずれも公共交通機関を利用したアクセスが可能で、縦走を楽しむことができるコースを厳選した。

 英彦山平尾台は非常に有名で、山登りには適するが、縦走路としてではなく、単独のループとして歩くことができるため、今回のリストからは除外している。

 

  1. 大平山~犬ヶ岳野峠 ☆☆

 このコースは大分県と福岡県の県境の稜線をたどる道。このコースの難点は、両端の取り付きまでの交通が貧弱なこと。県境の特性として、同部に至る公共交通機関はないか、あってもかなり本数が少ない。

 どういうことかというと、地方公共交通機関の大部分は、県、あるいは市区町村という地方自治体単位で運営されており、その境界を越える交通はなかなか存在しない。免許制度の問題かもしれないし、人口が自治体の中心に重心を置いて存在し、周辺部にいくに従って人家が少なくなるため、公共交通機関の利用が少なくなるからかもしれない。この地区ならば、わずか数キロメートルの峠の道を越えれば、隣の市のショッピングモールがあるのにというような状況でも、頑なにバスが市境の峠を越えないケースが多い。

 それはさておき、このコースの東端の大平山に公共交通機関を利用して向かうには、大分県中津市耶馬溪町にある青の洞門から8kmの山道を登るのが唯一の方法。

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大分県中津市耶馬溪町の青の洞門バス停からスタート

 いったん稜線に到達したならば、そこからの道は概ね快適。大平山以西の福岡県内の九州自然歩道は令和2年前後に再整備事業の対象になっているようで、ハイウエイ並みの美しさ。道標も真新しいものを数カ所で目にすることができる。

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 大平山からは瓦岳(624m)、雁股山(807m)、経読岳(992m)、犬ヶ岳(1130m)へと、稜線をいっさい下りることなく進む。

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稜線の快適な道を進む

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瓦岳山頂

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古峠から眺める経読岳

 経読岳から犬ヶ岳までの7kmほどと、犬ヶ岳から野峠までの5kmほどは、古の修験者が数百年にわたって延べ何万回も歩いた道であろう。路盤が人の足でしっかりと踏み固められており、道標がなくとも正しい方向に導かれるように歩いてしまうような山道が続いている。

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犬ヶ岳頂上に至る笈吊峠が山場となる

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犬ヶ岳頂上からの眺め

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神の世界の光景としか思えない

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 野峠からは公共交通機関がないため、添田町の運営するバスの走る英彦山登山口の1つの豊前坊まで、5kmほど国道500号線を歩かなければならない。これも県境に近い地域の悲哀。

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国道500号線の交通量は少ないので安心

 なお、稜線を伝い歩く40kmほどの行程を進み始めると、中途には補給や宿泊はない。沢水と野営のみとなる。

 

距離:40km程度(青の洞門~太平山、野峠豊前坊を含む)

行動時間:20時間程度(犬ヶ岳の前後での1泊以上を推奨)

補給:青の洞門(食事、商店)、経読岳(沢水)、野峠(沢水)、豊前坊(自販機)

九州自然歩道 大分県行程総括

九州自然歩道大分県エリア

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 大分県は、2013年に「おんせん県」の商標登録を行ったほど気合いの入った温泉推しの県。県内の18市町村のうち16市町村で温泉が湧出している。平成28年3月末における源泉総数は4,342孔で全国の16%、また、湧出量279,462L/分で全国の10.9%を占め、源泉数、湧出量ともに第1位(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/大分県#自治体)。

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別府駅駅名標

 こうなると気になるのが、おんせん県のくせに温泉の出ない自治体はどこかということ。皆さんもそうでしょ?調べてみたところ、津久見市姫島村津久見市は豊後水道に面した漁業とセメントの町。

 もう一つの姫島村が興味深い。国東半島の沖合に浮かぶ周囲17km、人口2千人足らずの小さな島。なにはさておき、盆踊りが有名。顔を真っ白に塗って、着物を着たキツネの姿で踊るのである。8月のお盆の時期になると、テレビでしばしば放送される。

 姫島は町長選挙が無投票なのも有名。藤本熊雄町長が1960年から1984年まで無投票で7期務め、次は父親の急死の後を長男の藤本昭夫が2016年まで8期連続無投票で務めている。2016年に姫島村で61年ぶりの町長選挙となったときには、九州では大ニュースだった。その結果も、現職の藤本昭夫が当選し、さらに2020年の町長選でも当選して、現在10期目。親子で通算16期となる。人ごとながら、こんな状態で大丈夫か心配になるが。

 それはさておき、大分県のコースのコースは、(1)祖母山から竹田を経て長湯に至るまで各所の湧水を堪能しつつのんびり歩くコース、(2)長湯から久住高原まで上って九州屈指の山々と数々の温泉を楽しみ豊後森まで下る温泉どっぷり堪能コース、(3)数々のメサやビュートを眺めながら山国川に沿って下る奇岩堪能コース、の3つのパートに分けられる。

 

(1) のんびり湧水コース(祖母山~長湯温泉)

 反時計回りで歩くと、九州自然歩道の大分パートは日本百名山にも選ばれている祖母山(1756m)から北に向けてスタートする。頂上からは国観峠を経由して、北に下る神原コースをとる。ほんの少しだけ寄り道になるが、9合目には快適な避難小屋も整備されている。

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祖母山山頂

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祖母山9合目避難小屋

 下山路の高低差は1500mあり、かなり急な道のり。整備状態は良好で、要所には木製の階段が付けられるなどされているので、難しいところはない。登山道はブナの森の中で心地よい。並行して谷川が流れ、名前の付けられていないような滝が無数にある。徒渉地点がいくつかあり、増水時には注意がいる。

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祖母山神原登山道は谷川と並行して進む

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徒渉地点も何カ所かある

 5合目に避難小屋がある。また、1合目の登山口駐車場にはバス停があるが、便数が少なく、運行日も限られているので注意がいる。

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5合目避難小屋

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5合目の滝

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1合目登山口の駐車場

 登山口から4kmほど進んだ最初の集落の神原には民宿清流があるが、ここはお勧め。民家を改修したような宿だが、とにかく料理が素晴らしい。値段との釣り合いがとれていないのではないかと思うほど。お風呂は鉱泉だが、川の流れを見ながらのんびりとくつろぐことができる。

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神原の民宿清流はお勧め

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料理が素晴らしい

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 神原からは竹田市街まで20kmほど神原川に沿って下っていく。ほとんどが舗装路。神原渓谷の水の色が美しい。

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神原渓谷

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 竹田市街に近づくと、いくつもの湧水が現れる。ここには地元の方々や料理人までが水を汲みに来る名水もある。カップを持参してテイスティングしてもらいたい。

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竹田湧水群は有名

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 竹田はJRの駅、いくつものホテルのある、中継地として至便の場所。源義経を迎えるために緒方三郎惟栄(これよし)が築城したと伝えられる巨大な岡城址が山の上に残る。美しい町並みの残された市街地など、見所も多い。

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城址は巨大

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竹田の町並みもお勧め

 竹田からは岡城址を通り、朝地から長湯に進む合計30kmほどの行程。見所は岡城を下った先の十川柱状節理と普光寺磨崖仏。長湯までの距離が長いため、JR朝地駅を中継地とすることもできる。

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十川の見事な柱状節理

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普光寺の磨崖仏も見逃せない

 長湯温泉はラムネ温泉でも知られる炭酸泉で有名な温泉地。静かでのんびりできる。勇気があったら全周露出で知られるガニ湯を楽しんでもらいたい。

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長湯はのどかな温泉街

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ラムネ温泉もよし

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ガニ湯にチャレンジするもよし

(2)温泉どっぷり堪能コース(長湯温泉~久住~豊後森

 長湯温泉からは舗装路を15kmほど歩いて、久住へのアプローチの朽網岐れ(くたみわかれ)登山道を進む。登山道は豪雨災害の影響を受けているが、通行は可能。湿地帯の佐渡ケ窪、その先の鍋割峠を乗り越え、鉾立峠を過ぎると久住の美しい山並みが目の前に拡がる。宿泊は法華院温泉山荘か坊がつるキャンプ場。キャンプ場宿泊の場合でも、料金を支払えば法華院温泉に入湯できるので、ここは何としてでも入るべき。数時間の山行の後に浸かる薄青色の温泉に、身体と心がとろけてしまう。

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牧草地を歩いて久住連山に向かう

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南の朽網登山道からは佐渡ケ窪の湿地帯を抜ける

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鉾立峠を越えると久住連山は目の前

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坊がつる

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法華院温泉

 坊がつるには1泊以上して、久住連山のいくつかに登ることもお勧め。久住山、星生山、中岳、大船山、三股山などがあるが、一等三角点のある久住山九重山の名で日本百名山に選ばれている。

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坊がつるキャンプ場か法華院温泉山荘を起点として久住連山をいくつか登る

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北千里が浜

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御池の左奥が中岳

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久住山の頂上から三俣山

 坊がつるからは、湿原の中を歩いて長者原に進む。登山道の整備状況は極上。長者原からは舗装路を牧ノ戸峠まで進んでから、ほぼ真北に向かって温泉群を訪ね歩く。次から次に現れる温泉群は、凄いの一語。八丁原地熱発電所に始まり、打たせ湯で知られる筋湯、ひぜん湯、大岳温泉湯坪温泉宝泉寺温泉と、温泉のオンパレード。たまにはテント泊ではなく、温泉旅館に泊まるのもありかと思う。

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坊がつるの湿原

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雨が池が長者原登山道の峠となる

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タデ原研究路

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長者原ビジターセンター

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牧ノ戸峠

 宝泉寺温泉を過ぎるとしばらく温泉はお休み。代わりにメサやビュートの奇岩でできた山が現れ、最後は伐株山というその名の通りの形の山から豊後森に真っ直ぐ下ってこのパートが終わる。

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切株山から豊後森に真っ直ぐ下る

 

(3)奇岩堪能コース(豊後森耶馬溪町大平山)

 豊後森はJR駅のある交通の要衝。ここからは北上していくつかの峠を越えて耶馬溪に向かう。豊後森の辺りはメサと呼ばれる、頭の部分を切り落としたような台地状の山が目立つ。

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豊後森のシンボルの伐株山が典型的なメサ

 山中を進む道が多いが、かつての参勤交代に使われた宇佐街道を歩く部分もあり、風情のある道のりである。ただし、補給地がほとんどないので、食糧計画はしっかり考慮する必要がある。

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豊後森から山移まではところどころ山の中

 豊後森から森川の水系を上っていき、城井峠を越えると山国川水系に変わる。このあたり一帯が耶馬溪と呼ばれる。奇岩の連なる絶景が続き、小豆島の寒霞渓、群馬の妙義山とともに日本三大奇勝とされている。

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耶馬溪エリアは奇岩の連続

 とくに見事なのは競秀峰と呼ばれる、山国川に面して切り立った岩峰群。競秀峰の下部には、羅漢寺の禅海和尚がノミで掘ったという青の洞門の跡が残る。コースから少し外れるが、競秀峰の崖には岩を伝って通る羅漢寺への参道の鎖場が残っており、ここも見所のひとつ。青の洞門エリアにはバス路線がある。

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競秀峰

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羅漢寺への急参道の鎖場が残る

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青の洞門

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競秀峰が山国川に向かって聳えるここでは、青の洞門ができるまでは何人もの人が落水して亡くなっている

 青の洞門からは日本最大の8連の石橋の耶馬溪橋を渡って大平山に向かう。山頂近くまで舗装路が続き、山頂から先は福岡県となる。

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耶馬溪橋(オランダ橋)

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大平山の頂上が県境となる

もう一度歩きたい大分県の道

 スタート地点、ゴール地点のいずれも公共交通機関を利用したアクセスが可能で、縦走を楽しむことができるコースを厳選した。

 

1.長者原法華院温泉山荘~県道30号線 ☆☆☆

 このコースは九州自然歩道を北から南に縦走するコースをお勧めしたい。

 JR豊後中村駅あるいは高速バスの九重インターチェンジバス停を中継地として、コミュニティバス長者原まで移動する。長者原ビジターセンターをスタートして湿原を通って雨が池越を過ぎると、坊がつるの湿原に至る。長者原からは2~3時位間程度の歩行。時間が早ければ、九重連山のいくつかに登ることもできる。

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豊後中村駅

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長者原ビジターセンターからスタート

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坊がつるの湿原にテントを張っても心地よい

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法華院温泉山荘ももちろん快適

 同日の宿泊は法華院温泉山荘に宿泊しても、坊がつるのキャンプ場に野営してもよい。疲れた身体は法華院温泉のかけ流しの温泉で癒す。飲料水や食事も法華院温泉山荘でとることができる。

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坊がつるの向こうに平治山(左)と大船山(右)

 日程に余裕があれば、翌日は九重連山のいくつかに登って、再び宿泊する。九重連山は、北アルプスのような険しい岩がむき出しの山ではないが、噴煙の上がるところもあり、神様がそこにいそうな気分がする。

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久住別れから三俣山

 最終日は坊がつるを発ち、鉾立峠から九重連山に別れを告げて、佐渡ヶ窪の湿地帯を抜けて朽網分れに向かう。3時間ほどで登山口まで来ると、正面近くにガンジー牧場がある。ここで食事と食後のアイスクリームを楽しんでから、牧草地を南に進むとバス路線のある県道30号線に出る。境川、小倉峠のバス停から長湯温泉あるいは竹田駅まで行き、帰途につく。

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法華院から鉾立峠に向かう

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山を下りれば久住町の牧草地

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ガンジー牧場で一休み

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県道30号線からバスで帰途に

 

2.牧ノ戸峠~豊後森 ☆☆☆

 牧ノ戸峠まで行っておきながら、久住連山には登らんのかいと怒られそうなコース。

 まずはJR豊後中村駅あるいは高速バスの九重インターチェンジバス停を中継地として、コミュニティバスで終点の牧ノ戸峠まで移動する。牧ノ戸峠は久住連山への登山口として最も多く利用されているが、今回はみんなとは180°方向の異なる北に向かって進む。牧ノ戸峠の駐車場から道路を横断して、九州自然歩道の標識を見つけて舗装路を下り始める。進むにつれて谷底から八丁原地熱発電所のタービンの音と思われるゴーっという音が聞こえてくる。

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牧ノ戸峠の駐車場から久住連山に背を向けて北に向かって山を下る

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しばらくすると八丁原地熱発電所の水蒸気が見えてくる

 最初に現れるのは筋湯という打たせ湯で知られる温泉。次いで疥癬(ひぜん)湯が現れる。さらに右手に大岳地熱発電所が見えたところが大岳温泉で、湯坪温泉と続く。

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最初に現れる筋湯はいい雰囲気の温泉街

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筋湯は打たせ湯で知られる

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すぐ先にひぜん湯

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その次は大岳温泉

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岳温泉にも地熱発電

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湯坪温泉

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 町田牧場では食事が可能。宝泉寺温泉も素敵な宿が並ぶ。ここまでで約20kmなので、宝泉寺温泉に宿泊するのもよい。1日中ほとんど舗装路歩きとなる。

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宝泉寺にはかつて鉄道が通じていた

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宝泉寺温泉も雰囲気がいい

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 翌日は相狭間、口の園と集落の舗装路を歩き、黒猪鹿(くろいが)集落から山道に進んで万年山(はねやま)の頂上に至る。万年山からは万年山牧場と吉武台牧場の草原の中を歩く。

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万年山

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万年山牧場

 吉武大牧場からは舗装された林道を7kmほど歩いて伐株山の頂上に到着。豊後森の市街地を眼下に一望できるここからの眺めが素晴らしい。伐株山からは北の直登コースを下山して、豊後森の市街地に至る。豊後森では鉄道遺構の豊後森転車台は必見。

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豊後森転車台
  • 距離:45km
  • 行動時間:13時間(1泊推奨)
  • 補給:牧ノ戸峠(食事、商店)、筋湯から湯坪温泉までは切れ目なく温泉が続き、コース上の最後に宝泉寺温泉(宿泊、温泉、商店、食事)、万年山(キャンプ)、伐株山(売店、食事)、豊後森(商店、食事)

九州自然歩道 宮崎県行程総括

九州自然歩道宮崎県エリア

宮崎県西諸県郡高原町高千穂峰~宮崎県西臼杵郡高千穂町祖母山

 2021年3月6日~2021年7月17日活動

 活動日数 20日

 距離480.7km 813684歩

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 宮崎県は私の好きな県。大学時代の友人の実家のあるところで、何度も訪れている。海がきれいで、波が良く、気候が穏やかで、何よりも人の心が穏やか。宮崎では対人的な不快感を覚えた出来事の記憶がない。とくに自動車の運転。あおり運転など皆無で、車間が広く、皆さん道を譲ってくれる。友人に聞くと、かつて新婚旅行のメッカで、レンタカーやタクシーに配慮していた名残ではないかということだったが。

 それにしても、、、福岡を基準にして恐縮だが、、、宮崎県は遠い。九州自然歩道を鹿児島から北上してきて、地図の上では空間的な距離はずいぶん福岡に近づいてきたはずなのだが、トレッキングのための中継地点までに要する時間は鹿児島以上にかかる。鹿児島よりも時間的には遠いのだ。

 例を挙げよう。失礼な言い方かもしれないが、九州の中で地の果てるところといえば本州最南端の鹿児島県大隅半島佐多岬と考える人が多いだろう。福岡からは直線距離で290kmほどある。福岡から佐多岬(大泊)への始発かつ最速の交通は、

博多6:10九州新幹線鹿児島中央7:58/8:10鹿児島交通バス-鴨池港8:38/8:50垂水フェリー-垂水港9:30/垂水10:00鹿児島交通バス-大泊11:59

と6時間を切る。

 九州自然歩道のコースで通過する宮崎県美郷町は福岡からは直線距離で160kmほど。バス路線のある美郷町役場は九州自然歩道から2kmほどしか離れていないため有力な中継地であるが、福岡からの始発最速の交通は、

博多バスターミナル8:25高速バスごかせ号-延岡12:54/13:24-日向市13:52/日向市駅東口13:59-宮崎交通バス-美郷町役場前14:58

と6時間を優に超え、到着は午後3時に近い。同日の活動が困難な時間なのだ。

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 宮崎を歩く際には、中継地の選定とそこまでの交通の確保が難しい。私の場合は、基本的には週末限定でトレッキングしているため、宮崎県ではJRはもちろん、地方交通のバス、コミュニティバス、高速バス、飛行機まで駆使して、最速だったり最安だったり、目的の時間に着くための方法を模索して行動した。宮崎の公共交通機関については適切な選択がとても難しいため、宮崎県内の九州自然歩道を歩こうと思う方は、これまでの私のトレッキングで実際に使用した交通路などを参考にして各自熟考してもらいたい。それはそれで、それなりに楽しめるはずだ。

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宮崎県の行程中は福岡からの飛行機をしばしば利用

 宮崎県のコースの概要を説明する。宮崎のコースは(1)高千穂峰から西都までの神代の史跡と古墳巡りコース、(2)西都から延岡市北方町細見までの九州山地の辺縁巡りコース、(3)細見から祖母山までの高千穂峡と神々の史跡巡りコース、の3つのパートに分けられる。

 

(1) 神代の史跡と古墳巡りコース(高千穂峰~西都)

 鹿児島県から高千穂峰を登り、県境となる頂上から霧島東神社を目指して降下するところから宮崎ルートははじまる。高千穂峰は多くの登山客で賑わう人気のある山。霧島東神社までの登山道は良く整備されており、迷うことはない。霧島東神社から2kmほど先の御池(みいけ)にはお勧めできる快適なキャンプ場がある。御池の一周コースは支線となっているが、コースの崩落が著しいため、進むことはお勧めしない(2021年3月時点)。

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高千穂峰の山頂に立つ天の逆鉾

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霧島東神宮は落ち着いた神社

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御池でのキャンプはお勧め

 御池からは有名な神武天皇の像のある皇子原を経て、神武天皇を祀った狭野(さの)神社と進み、JR吉都線の高原(たかはる)駅までは10kmほどである。高原は落ち着いた町で、商店も多数あり、補給には適している。

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皇子原に立つ神武天皇像 第1回国勢調査の表紙に使われて神武天皇のイメージが固定した

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神武天皇を祀る狭野神社

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高原駅は中継地点として利用可能

 高原から10kmほど進むと、次の目標地の霞神社となるが、途中の宮崎フリーウェイ工業団地付近から辻ノ堂川に沿って進んで蓮太郎温泉に抜ける道は先行した先達の蛸鹿さんやヤマトホと同じく、私も見つけることはできなかった。現状では高原を通過する国道223号線を北上して、南東に向かう県道414号線を進むのが最適解と思われる。交通量が多く、無粋だが。県道沿いに霞神社の参道が現れ、700段ほどの石段を登った先には、小さいけれども歴史を感じさせるお社が建っている。私は雨にたたられてしまったが、標高349mの神社からは素晴らしい眺望が楽しめるはず。

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霞神社も美しい神社だった

 霞神社からはしばらく林道を進み、10kmほどで野尻湖の湖畔に出る。岩瀬川の川の流れは聞こえるが、残念ながら野尻湖の湖面はなかなか見えない。野尻湖からさらに10kmほど進むと天ヶ谷で国道268号線に出る。この道路は、小林市と宮崎市とをつなぐ幹線道路で、バスの便がある。九州自然歩道は国道268号線を跨いで山中に進むはずであるが、天ヶ谷、石瀬戸あたりで九州自然歩道のオリジナルルートを探索したが、道路のひどい崩落のために自然歩道の通行は不可(2021年4月時点)。今別府あたりまで国道268号線を西に進んでから山中に左折して、九州自然歩道の標識を探すのが妥当と思われる。国道268号線上の天ヶ谷から紙屋までの5kmほどはバス停が点在しているため、どこでも1kmほど歩けばバス停に出ることができる離脱の容易なエリアである。小林駅あるいは宮崎駅までのバス便がある。

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野尻湖 北を走る国道268号線にはバス停が多数ある

 国道268号線から綾町に向かって北に進みはじめたら、しばらくは山道となる。広沢ダムまでおよそ10kmで、その間の山道の整備状況は良好。広沢ダムから先は通行止めが多く、正しいルートは判然としない。本庄川(綾南川)に出たら、ハイカーズマップでは西に2kmほど進んで川中神社に到り、そこからは綾南川の北岸をトロッコ道に沿って照葉大吊橋まで進むのがオリジナルルートであるが、蛸鹿さんなどの情報ではトロッコ道の崩落は著しく、とても進めない状態のよう。わたしも直近の通行歴のあるヤマトホの選択に従って、綾南川の南岸を照葉大吊橋まで進んだ。

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広沢ダム

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照葉大吊橋

 照葉大吊橋を渡って北岸の散策路をしばらく歩き、かつてのトロッコ道をいくらか歩いた。トロッコ道とは、かつて木材の搬出に使用したナローゲージの鉄路跡であるが、急峻な崖を削り、切り通しを作り、それでもダメなら素掘りのトンネルを掘ってあり、景色が良く、傾斜もなだらかで、歩くには最適。このままいつまでも続いてくれたらいいのにと思うほどの快適さ。きちんと整備したら、トレッキングコースとして最上のコースとなるであろう。また、ナローゲージの観光トロッコでも走らせたら、集客力の高い観光資源になるのではないだろうかと思う。私は行くよ。

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ここを木材運搬用のトロッコが走っていた

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 照葉大吊橋からは県道26号線を綾町に向かって進む。3kmほどで綾の里という地鶏専門の食堂があるが、ここは料理が美味しくてお値頃、窓からの景色も良くてお勧め。大吊橋から県道を10kmほどで綾町の中心街に到るが、九州自然歩道は7km地点で綾南川を渡る橋を通過したら再び北に向かって山中を歩いて、綾北川を吊り橋で渡ったところの綾川荘に着く。綾川荘には温泉と宿泊施設がある。綾町の中心からは宮崎行きのバスが一日数便出ており、中継地としては有力。

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地鶏料理の綾の里はお勧め 美味しくて安くて景色が良い

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綾北川を吊り橋で渡ると綾川荘

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綾町の中心地

 綾町からはさらに北に向かう。国富町を経て西都市に入るが、海岸線からは10km以上離れた山中の道で、綾町の中心部から西都市の市街地までの間は補給が困難となることを覚悟しなければならない。また、道中の山道も藪漕ぎあり、徒渉ありで、アドベンチャー感に溢れる。

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国富町の山中から10km以上先の海を眺める

 本パートで最後にたどり着くのが西都原古墳群。南北に2km、東西に1kmほどの大地に319基の古墳が並ぶ様は圧巻。古墳の多くは、周囲が伐採されてきれいに整備されており、芝に覆われたその姿を直に見ることができる。また、鬼の窟古墳には横穴式の石室にまで立ち入ることができる。教科書に掲載されているような古墳がいくつも並び、しかも内部にまで入ることができるので、テンションが上がりっぱなしになることは間違いない。男狭穂塚、女狭穂塚という巨大古墳は宮内庁が管理しており、周囲の伐採もされていないため、その姿を見ることができないのが残念。

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西都原古墳群

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鬼の窟古墳

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男狭穂塚は宮内庁が管理する

 古墳群は桜、菜の花、コスモスなど、季節の花で彩られる。タイミングを合わせて訪れて、弁当を開きながら1日ゆっくり過ごすのもおすすめ。

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季節の花で彩られた古墳群

(2)九州山地の裾野を巡る(西都~延岡市北方)

 西都原古墳群からは北東に進路をとり、木城町に進む。その間は舗装路80%、山道20%ほどで、難渋するところはない。杉安橋で一ツ瀬川を越え、川原橋で小丸川を越えるが、いずれも橋の上から眺めた川の色合いが吸い込まれそうなぐらい美しい。

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西都市を流れる一ツ瀬川

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木城町の小丸川も美しい

 木城町の山中には陶然茶房という台湾茶を飲ませてくれる陶芸家の運営する素敵なカフェがあるので、ぜひ立ち寄ってもらいたい。ただし、1煎、2煎と味と香りを変えていく上質な台湾茶を6煎まで味わうためには、1時間以上の滞在が必要。

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木城町の陶然茶房はゆったりできる空間

 九州自然歩道はさらに北東に川南町、都農町へと進む。このあたりは、自販機以外の補給は期待できないところとなるので、食料については綿密な計画が必要となる。

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木城町の白鬚神社

 都農町では、名貫川に沿って北上する。名貫川も素晴らしく美しい川。その源流となる尾鈴山は瀑布群で有名。尾鈴川の山頂に向かって西に進む瀑布のコースは支線となっているが、ぜひ足を伸ばしてもらいたい。とくに支線の終点となっている白滝は息をのむほどの美しさ。ここまでの道のりの大変さを考えると、遠来の方にとっては、尾鈴山瀑布群を見ることのできる一生に一回だけの機会となる可能性すらある。尾鈴山のコースの標高の低い部分はトロッコ道として使われていたので、勾配は緩く、歩きやすいこともお勧めする理由である。

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都農町と川南町の間を流れる名貫川

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尾鈴山にはトロッコ道が残る

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かつてトロッコが通った素掘りのトンネル

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尾鈴瀑布群でもとりわけ見事な白滝

 尾鈴山の登山口から次の経由地までは、九州自然歩道の中でも指折りの難所である。登山口近くにある尾鈴山キャンプ場から、日本の滝百選に選定されている矢研の滝を経て、アップダウンの厳しい山中を20km近く歩いて、ようやく東郷町の牧水公園のキャンプ場に到達する。舗装路の部分はほとんどなく、迷いやすいところ、膝下までどっぷり浸かる徒渉もある。中間部分の石並川に出たところで野営をして、2日かけて進むことを検討した方がよいかもしれない。ちなみに、石並川の水系にもいくつかの滝があるが、これらも素晴らしく美しい。

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尾鈴山登山口にはキャンプ場

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日本の滝百選の矢研の滝

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石並川水系にも無名の滝が多数

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日向市東郷町の牧水公園

 東郷町から西郷町までは珍神山(うずがみやま、823m)を越える道のりで、ここも20km以上あり、険しく、補給がない厳しいルート。そして、西郷から次の宇納間まで、宇納間からその次の延岡市北方までの道のりも、ともに30kmを越える。いずれも山並みのきれいなコースではあるが、ところどころコースが不明瞭で、藪漕ぎを強いられるところもあるので、時間的な余裕を持って行動する必要のあるエリア。

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珍神山山頂に続く階段

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東郷町から西郷町にかけては九州山地のまっただ中

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西郷ダム

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宇納間地蔵尊

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延岡市北方の速日の峰から延岡市街地を眺める

 中核都市である延岡市街への定期運行バス等の交通があるのは、美郷町東郷(牧水公園)、美郷町西郷(美郷町役場)、延岡市北方(細見)ぐらい。宇納間、尾鈴山方面に向かうコミュニティバスがあるが、平日のみで便数も限られている。交通については十分に下調べする必要がある。

 

(3)高千穂峡と神々の史跡巡り(延岡市北方~祖母山)

 延岡市からは北西に進む。ただし、国道218号線の進む五ヶ瀬川に沿ったコースではなく、北寄りに進む細見川によってできた谷を進んだ後に、稜線を歩くことになる。途中の往復8kmほどになる支線であるが、行縢山(むかばきやま、829m)に立ち寄ることをおすすめする。堂々とした山容で、眺望のよい山であり、登山路から見える行縢の滝は日本の滝百選に選ばれている名瀑だからだ。この一枚岩の上を流れる滝は必見。

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延岡市北方細見から細見川の上流に進む

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行縢山頂上

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行縢の滝は圧巻

 この先は、延岡北方の山々の稜線を下りてから、網の瀬川に沿って進む矢筈岳トロッコ道が素晴らしい。左に比叡山、右に矢筈岳という形のよい山を眺めながら川沿いの道を進み、再度山中に進んで丹助岳の頂上に登る。この山も姿の美しい岩山。丹助岳からは3時間も歩けば日之影温泉に浸かることができる。ここにはかつての高千穂線の車両を活用した宿泊施設もある。

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延岡市北方の山中を進む

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矢筈岳トロッコ

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丹助岳

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日之影町の青雲橋

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日之影町ではTR列車の宿がおすすめ

 日之影温泉からはしばらく国道を歩き、山中の道を進んで、高千穂に至る。ここはコース外ではあるが、3kmほど北東にある天照大神が隠れたという天岩戸をご神体とする天岩戸(あまのいわと)神社と、隠れた天照大神を引き出すために神々が合議をしたという天安河原(あまのやすがわら)を実際に見ることができる。

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天岩戸神社

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天安河原

 高千穂は見所の多いところ。九州自然歩道のコース上では、岩を削ってできた高千穂峡や、狭い渓谷の上から白い水流が流れ落ちる真名井の滝を通過する。さらに時間があれば、市街の中心地の高千穂駅から発着する高千穂鉄道に乗ってみるのもおすすめ。高千穂には橋がいくつも架かるが、いずれも谷底までの距離が長い切り立った谷にかけられている。

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真名井の滝

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高千穂峡

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高千穂鉄道

 高千穂からは主には山中の道を北に進む。半分ほどは舗装路であるが、荒れた藪の中を進むところもある。三秀台の草原を過ぎてからは、宮崎県と熊本県、そして大分県との県境となる祖母山(1756m)に至る。祖母山への登山路の整備状態は非常に良好で、迷うことはない。

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高千穂竜泉寺の竜が岩の滝

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三秀台

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祖母山山頂

 祖母山は宮崎県の最高峰で、日本百名山の1つ。その名は、神武天皇の祖母である豊玉姫にちなんでいるという。

 

もう一度歩きたい宮崎県の道

 

 スタート地点、ゴール地点のいずれも公共交通機関を利用したアクセスが可能で、縦走を楽しむことができるコースを厳選した。このほかにもお勧めのコースがあるのだが、公共交通機関によるアクセスが悪すぎて、野営を2泊以上要するので今回は紹介を諦めた。

  1. 高千穂河原~高千穂峰~霧島東神社 ☆☆☆

 こちらの高千穂は、宮崎県と鹿児島県の県境になる南の高千穂のほう。天孫降臨の地として知られる。景色も良く、周辺の山から噴煙が湧き起こる様を見ると、やっぱりここから日本が始まったのかなとさえ思える。

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天孫降臨ときっぱり言い切る 高千穂河原

 スタート地点は鹿児島県内の高千穂河原である。ここまでは日豊線霧島神宮駅からバスでいわさきホテルまで行き、霧島連山周遊バスに乗り換えて高千穂河原まで行くことができる。あるいは霧島神宮までバスで行き、高千穂河原まで5kmほど歩く手もある。ちなみにJR霧島神宮駅から霧島神宮までは8kmほどあるので、この区間はバスの利用をお勧めする。

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高千穂河原から見る高千穂峰

 高千穂河原ビジターセンターから登山道を進み、馬の背と呼ばれる噴火口周囲の稜線を進み、高千穂峰(1573m)までは1時間半ほど。頂上には天の逆鉾がある。司馬遼太郎先生の本では、坂本龍馬はこの逆鉾を抜いてしまったのだが、現在は一般人には抜けないように囲いがしつらえてある。

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火口周囲の馬の背を進む

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頂上には天の逆鉾

 ほとんどの人は高千穂峰から高千穂河原に戻るが、そのまま東尾根を越えて進む。少し距離の長い下山路であるが、終点は霧島東神社。ここも荘厳な雰囲気の神社である。

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東尾根はかなりの急勾配

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霧島東神社

 神社から1.5kmほど先の御池キャンプ場は非常に快適なキャンプサイト。また、東に6kmほどのところに旅館がある。

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御池キャンプ場

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御池のほとりにテントを張る

 ゴール地点からの帰路は、霧島東神社の下の国道223号線にある祓川バス停から1日数便のバスに乗るか、10kmほど北に歩いたJR吉都線高原駅からとなる。

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高原の町では補給可能

距離:14km

行動時間:5時間

補給:高千穂河原ビジターセンター(食事、売店、(キャンプ))、御池キャンプ場(売店、キャンプ)、祓川(食事)

 

  1. 西都バスセンター~木城町川原自然公園 ☆☆☆

 西都市の中心地にある西都バスセンターを出て約2km歩き、小高い丘を登ると西都原の古墳群に着く。

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石貫神社の階段を上ると西都原古墳群

 ここは300以上の古墳が集まる日本最大規模の古墳群。鬼の窟古墳など、内部を見学できる古墳がいくつかある。死ぬ前に1度は訪れてみたい場所。また、宮崎県立西都原考古博物館にも立ち寄りたい。

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大山古墳

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鬼の窟古墳

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中まで入ることができる

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宮崎県立西都原考古博物館

 西都原古墳群からは一ツ瀬川に沿って杉安橋まで進み、山中の道をしばらく歩いた後に穂北で県道40号線に合流した後はそのまま川原橋で小丸川を越えて川原自然公園に至る。小丸川の色合いはきっと心に残ると思う。

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一ツ瀬川

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小丸川の色が忘れられない

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陶然茶房の台湾茶の香りも

 川原自然公園でキャンプをしても良いし、小丸川沿いに下流に5kmほど進めば木城町役場があり、JR日豊線高鍋駅までのバス便がある。

距離:20km

行動時間:6時間

補給:西都市街(宿泊、温泉、食事、商店)、西都原古墳群西都原考古博物館(食事)、コース上に自販機が点在

 

  1. 都農駅~尾鈴山キャンプ場~白滝~牧水公園 ☆☆☆

 JR日豊線川南駅を起点として、尾鈴山キャンプ場の6kmほど手前の細集落までコミュニティバスが運行しているが、登録が必要で、営業日が限られている。JR日豊線の都農(つの)駅から尾鈴山キャンプ場まで15kmほど歩くのが、現実的な交通手段である。

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このコースは都農駅から15kmほど歩かなければならないが、それでもなお紹介したいほど素晴らしい道

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キャンプ場までの道のりも十分楽しめる

 キャンプ場で初日はのんびり過ごし、翌日はキャンプ場から西の欅谷方面に進み、紅葉の滝、すだれの滝、さぎりの滝、白滝という尾鈴山瀑布群を巡る。大部分はトロッコ道を歩く往復2時間程度のやさしいコースである。余力があれば、さらに矢筈岳(1330m)、長崎尾(1373m)、尾鈴山(1405m)と歩き、北の瀑布群を周回してキャンプ場まで戻るコースもおすすめ。周回コースは16kmほどで、コースタイムは9時間ぐらい。

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欅谷方面の尾鈴山瀑布群への道はトロッコ道で始まる

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快適なトロッコ

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素掘りのトンネルも楽しめる

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さぎりの滝

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さらさの滝

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白滝

 翌日はキャンプ場から北の矢研谷に進み、1時間ほどで日本の滝百選の矢研の滝に着く。ここからさらに山中に進み、5時間ほどで石並川に至る。途中まではトロッコ道が残るが、全般的にはハードな山越え。石並川には美しい無名の滝が点在する。石並川沿いには野営可能な平地があり、JR東都農駅から続く県道301号線山陰都農線へのアクセスがある。

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尾鈴山キャンプ場

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矢研の滝

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ナンバンギセル

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石並川の無名の滝

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 石並川に沿って上流に向かって桃谷を進む。このあたりにも一部トロッコ道らしき痕跡が残るが、山中深く進んでいく。数カ所の徒渉部分もある。標高200mほどの石並川から標高700mほどの神陰山の北稜線を巻いて進み、迫内川の流域に出たら、のんびり下れば東郷町の牧水公園に到着する。

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ロッコ

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何カ所かで徒渉

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牧水公園

 牧水公園にはキャンプ場と自販機があり、食堂もある。また、日向市駅への定期バスも運行されている。

距離:16+19km

行動時間:9+10時間

補給:都農市街(宿泊、食事、商店)、牧水公園(キャンプ場、自販機、食堂(営業は未確認))

九州自然歩道 鹿児島県行程総括

九州自然歩道鹿児島県エリア

鹿児島県伊佐市久七峠~鹿児島県霧島市高千穂峰

 2020年10月25日~2021年3月6日活動
 活動日数 29日
 距離664.0km 118406歩

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  鹿児島県に先立つ熊本県は歩行距離630kmと長く、踏破には28日を要したが、鹿児島県はさらに長い664km、29日と九州内で最長であった。

 鹿児島のコースは①薩摩半島エリア、②大隅半島エリア、③霧島エリアの3つに分けることができる。かぎりなく続く砂浜、どこまでも青く透き通った海、鬼のようにきつい縦走路、神々を感じることができる山と、それぞれのエリアには特徴がある。今回はこれらのエリアの特徴と楽しみ方、それから何よりも縦走に重要な中継地までの公共交通機関を利用した交通事情についてお伝えしようと思う。 

  1. 薩摩半島エリア

 熊本県人吉市から久七(きゅうしち)峠を越えて鹿児島県に入る。薩摩半島エリアの交通の拠点となる主要な町は、伊佐市大口、さつま町宮之城、串木野南さつま市加世田、枕崎、指宿市山川である。これらの町にはいずれも、宿泊施設、商業施設があり、バスや鉄道などの利便性も高く、中継地として重要である。

 人吉市の最後の集落の田野から久七峠を越えて、5kmほど進むと国道267号線と合流する。久七峠は立派な舗装路であるが、交通量はほとんどない。国道267号線は2004年に久七トンネル(全長3945m)が開通して、久七峠は旧道となってしまったからである。久七トンネルを歩いて抜けるのも面白そうかと思ったが、たまたま通りかかった自転車で通行を試みた方があまりに危険だと引き返してきたところからすると、歩いて通行するのも快適ではなさそうだ。久七峠からの眺望はあまり良くないが、ところどころから見える大口盆地がひろがる様は印象的である。

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久七峠から見える大口盆地

 久七峠から15kmほどで伊佐市の中心地の大口地区に着く。大口からの交通はバス。注意がいるのは、大口からの定期バス(南国交通)は熊本県水俣と鹿児島県の吉松に向かうものが主力だということ。これは、1988年に廃止となった国鉄山野線が、水俣(現肥薩おれんじ鉄道、かつてのJR鹿児島本線の駅。九州新幹線では新水俣駅)~大口~栗野(JR肥薩線の駅。一つ北の肥薩線の駅が吉松)を結ぶ路線であったことも関係しているのかもしれない。バスの時刻表を調べてみれば、大口と新水俣とをつなぐ便が便利なことに気づくだろう。

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大口盆地は穀倉地帯

 大口から九州自然歩道は川内川(せんだいがわ)に沿って下流に向かっていく。まずは7kmほど先に、東洋のナイアガラと宣伝する看板を見るものの、だれもそう言うのを聞いたことがない曽木の滝。さらに下流に進むと、水位が下がると廃墟が見えたり、湖面全体が水草で覆われて水がちっとも見えなかったりする鶴田ダムによってできた大鶴湖を見ながら進む。

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東洋のナイアガラ 曽木の滝

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水草が繁殖する大鶴

 大口から45km先の宮之城は有力な中継地点。宮之城は、かつて川内と大口とを結んだ国鉄宮之城線の中継地であった。宮之城のバス路線は九州新幹線の駅のある出水あるいは川内との間をつなぐ路線が優勢。とくに出水~宮之城~鹿児島空港を結ぶエアポートシャトルの利用が便利。

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国鉄宮之城線 宮之城駅跡

 宮之城からは南に17kmほど進み、藺牟田(いむた)池に立ち寄る。ここは火山湖で、ラムサール条約指定湿地。キャンプ場や食堂があり、心地よく過ごすことができる。1周3kmほどの池の周囲を歩いても良いし、池を取り囲む標高500mほどの山々を巡る登山路もある。

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藺牟田池

 藺牟田池から5kmほど先には市比野(いちひの)温泉がある。ここには複数の温泉施設、宿泊施設、食事施設、商業施設がある。さらに22km進むと人口3万人の中核都市の串木野薩摩半島を横切って海にたどりついたこの地にはJR鹿児島本線の駅があり、北に2駅で九州新幹線の停車する川内駅と連絡する。

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串木野の沖には甑島

 串木野から先は海の道。照島海岸から南は美しい白砂の海岸が続く。九州自然歩道は照島海岸の砂浜が尽きる戸崎から先は国道270号線に進むが、国道は交通量が多く、歩道のない部分もあるため、できるだけ早く国道270号線を離れて海沿いに進むことをお勧めする。とくに、天昌寺で永吉(ながよし)川を渡った後は、旧南薩線(伊集院~加世田~枕崎をむすんだ鉄道。1984年廃止)の線路跡が自転車専用道路として供されているので、こちらを進むべきで、国道270号線を歩く理由はまったくない。吹上浜ではなるべく国道歩きを避け、加世田まではでるだけ片足に波がかぶるぐらいの海辺を歩くことをお勧めする。さすがに長さ47kmの日本3大砂丘の一つだけあって、それほどまでにみごとな砂浜が続くからだ。

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吹上浜

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南薩鉄道の線路跡を歩くのも心地よい

 吹上浜に沿ったコースの南半分の、永吉~加世田間はバスの便がある程度充実している。コースはかつての南薩鉄道と同じく、伊集院(現JR鹿児島本線伊集院駅)~永吉~加世田とつないでいる。バスを運営するのは鹿児島交通。前身は南薩鉄道株式会社。加世田は伊集院へのバス便、鹿児島中央駅行きの直行便、これから先の目的地である野間池までのターミナルである。

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伊集院のシンボルは島津義弘

 加世田からは17kmほど美しい海を眺めながら野間半島の東海岸を進み、片浦から山道を登って2時間ほどで野間岳(591m)の頂上に到る。野間岳の標高は高くないが、海から立ち上がった山のため眺望が素晴らしい人気の山。

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野間半島の東岸 笠沙の海は美しい

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野間岳の頂上からの眺望には息をのむ

 野間岳からはさらに西に進み、野間神社、女岳を経由して、野間半島を横切る形で西海岸に沿った国道226号線に出る。国道に出てからの公共交通機関が難しい。九州自然歩道を離れて北に3kmほど進めば、野間半島先端にある野間池という商店と食堂のある漁港で、ここからは1日数本の加世田行きのバスがある。

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野間半島先端の野間池

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野間半島の西海岸に出ると坊津の海

 九州自然歩道のコースに従って南に進むと、いわゆる坊津(ぼうのつ)地域。野間半島西海岸の急峻な地形のため、昭和28年に野間半島先端の野間池と枕崎との間の道路が整備されるまでは、集落間の交通は船だけだったというすさまじい交通隔絶地であったところである。坊津地域は、その隔絶された地理を生かして、江戸時代には密貿易商や海賊が跋扈していたらしい。そんな名残か、現在も野間池と坊津の南の今岳集落までの25kmほどの区間にはいまだに定期バスは営業していない。野間岳から西に下りた後、10kmほど南に歩いた坊津秋目には漁師さんが営業する素晴らしく魚が美味しい民宿(がんじん荘 Tel:0993-68-0652)があるので、そこに一晩お世話になってから枕崎に進むのがお勧め。

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亀ヶ丘 亀岩から見た坊津の海

 加世田を出てから、野間岳、坊津と進んで野間半島をグルリと回って枕崎までは70kmほどあるが、なんとか生き延びて歩き続けて欲しい。枕崎までたどり着けば、宿泊施設も、商業施設も、銭湯まである。ここはJRの終着駅として有名な地である。枕崎からはJR枕崎線が利用できるが、じつは鹿児島中央までは停車駅の多い枕崎線よりもバスのほうが早かったりするので、油断しない方が良い。

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枕崎はJR南端の終着駅

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枕崎の海辺は鰹節を燻す煙に満たされている

 枕崎からは東に30km、海岸沿いに開聞岳(924m)を見ながら進む。開聞岳は見事な円錐形の山で、スックと海から立ち上がった姿は完璧。一日中見ながら歩いても見飽きない。朝、枕崎を出発すると逆光になるのが難。コースの一部は国道226号線で、交通量が多い。この区間では補給に困ることはない。

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枕崎から開聞岳が見え始める

 開聞岳登山路は九州自然歩道の支線ではあるが、日本百名山に選定されており、登山道の整備状況も完璧で、ゆっくり上っても3時間ほどで頂上に着くことができるので、ぜひ登ってもらいたい。

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開聞岳頂上からの眺望

 開聞岳から薩摩半島の終着点となる山川までは30kmほど。途中には砂蒸し温泉を含んだいくつかの温泉や、地熱発電所や奇岩の竹山などの寄り道スポットが多数ある。また、宿泊施設も点在しているので、それらを利用することも可能。山川には複数の宿泊施設、食堂がある。ここから対岸の根占(ねじめ)までフェリーで渡ることになる。

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山川の砂蒸しと竹山

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山川と根占を結ぶフェリー

   2. 大隅半島エリア

 山川から根占港にフェリーで渡って大隅半島のトレッキングが始まる。山川-根占間のフェリーの乗船時間は50分。鹿児島湾(錦江湾)の中を航行し、距離は10kmほどしかないのだが、しばしば天候を理由に欠航する。私自身も欠航に見舞われ、その後の大隅半島トレッキングに多大な支障を来した。やむなく夜中に走らざるをえなかったのである。大隅半島は公共交通機関に弾力性がない。

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南大隅町の海岸

 鹿児島県ではどのエリアで公共交通機関の利用に難渋するかと問われたら、大隅半島すべてと回答するのが正解かもしれないが、とりあえず鹿屋以南は絶望的だとしておこう。どのぐらいヤバいか、例を挙げてみよう。本州最南端の地として知られている佐多岬に一番近いバス停は、佐多岬の先端から6kmほど北の大泊にあるが、そこからの上りのバスの便は1日1本で、8:00で終了である。なんと、8:00発が終バスなのだ。

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南大隅町の極楽鳥花

 こんなふうに、大隅半島を公共交通機関利用で攻略しようとした場合には、コミュニティバスを含めたバスの時刻と路線のサーチ能力を要する。鉄路のない大隅半島からの帰宅を考えたならば、数少ないバスの時間に合わせて、ミスのないコース読みと、ある程度の時間的な余裕、いざというときの迂回経路を考えるような行動をとらなければならない。

 それでは、大隅半島の交通の拠点とその特性を挙げておこう。

 根占は山川港からのフェリーの到着地で、大隅半島南部の交通の要衝。鹿児島中央駅から指宿枕崎線山川駅まで南下して、フェリーで渡ることができる根占には宿泊施設、食堂、商業施設、温泉施設などがある。山川根占フェリーは欠航が多いのが難点。また、バスについても根占は重要な拠点で、南の佐多岬に向かうバス、北の垂水に向かうバス、わずかながら大隅半島の中央を通って鹿屋に向かう便も根占を経由する。

 鹿屋市吾平町九州自然歩道ルートからわずかに北に外れるが、公共交通機関の少ない鹿屋以南の地域では非常に助けとなる。鹿屋市の中心地までバスが1日数便あり、吾平町からの中途離脱を可能にしている。

 鹿屋は大隅半島の中心にある都市で、人口は10万人。宿泊施設や商業施設、温泉施設などすべて揃っている。鹿屋までたどり着けば、大隅半島はなんとかなる。JR鹿児島中央駅からバスで鴨池港まで20分ほど乗り、1時間に1本ほどある垂水フェリーに50分乗り、フェリーターミナルで待つバスに乗れば1時間ほどで鹿屋に着く。大隅半島攻略を終えるまでには、このルートに何度となくお世話になることだろう。

 鹿屋ゴルフ場は穴場的な交通拠点で、九州自然歩道を歩こうと思う者が忘れてはならないバス停である。鹿児島空港から鹿屋まで1日数便の鹿児島空港線バスが走るが、このバスが鹿屋ゴルフ場(バス停名 ゴルフ場前)で停車する。鹿屋ゴルフ場とはいうものの、ロケーションは鹿屋の市街地から北に20km離れた大隅湖の畔。鹿屋からたかが20kmと思ってはいけない。このロケーションは、鹿屋を出て標高1000mを超える高隈山系を縦走する40kmのトレッキング後に忽然と現れるバス停なのだ。このバス停がなかったら、鹿屋から国分までの80kmを通して歩かなければならないので、攻略には4連休を要する。ゴルフをプレイする人間が、機材を抱えてこのバスに乗るとは考えられない。運行を担っているいわさきコーポレーションの気の利いた担当の方が、九州自然歩道トレッキングのためにわざわざ停留所を設置してくれたのではないかと思えるほど、絶妙な位置にあるバス停である。

 さて、前置きが非常に長くなったが、大隅半島トレッキングの概要に移ろう。

 山川港からフェリーで根占港に着いたら、大隅半島西岸の佐多街道を南に下る。歩くのは国道269号線で、交通量は多い。多いとはいっても、それほどではないので気にすることはない。右に錦江湾に浮かぶ開聞岳。左には辻岳(773m)、野首嶽(897m)といった山々が聳え立つ。標高はそれほどではないものの、海からそそり立つ姿に威圧感を感じる。

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佐多街道

 野首岳の西の炭屋(すんや)を過ぎたあたりから、岩壁が直接海に落ち込むような地形となり、海に向いた面が開放された覆道を通る部分が多くなってくる。

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佐多街道の南には覆道が多くなる

 根占から20km先の伊座敷にはAコープがあり、ここ以南には商店らしい商店はない。佐多岬から折り返す60kmほどにも商店らしい商店はないので、ここが実質的な最後の補給地と思っても良い。伊座敷からは内陸の山道をしばらく歩く。山中で涅槃門なる宗教施設が現れるが、その神秘的な雰囲気にビックリするだろう。この先15kmほどで本州最南端の佐多岬に着く。ここまでの経路はすべて舗装路。ちなみに佐多岬の手前6kmの大泊で九州自然歩道は折り返すのだが、ここまできたら最南端を見ないで帰るわけにはいかない。また、佐多岬九州自然歩道を離脱しようとしても容易なことではないので、行動は計画的に行わなければならない。大泊にはホテルとキャンプ場がある。

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本州最南端の佐多岬

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大泊海岸

 大泊からはしばらく大隅半島東海岸の美しい海を眺めてから、内陸部を折り返す。風力発電の風車が立ち並ぶ佐多馬籠の標高500mほどの丘を超え、野尻野(のじんの)からは佐多街道から見上げた野首嶽、辻岳の稜線を歩いて、西原台のパラグライダーテイクオフグラウンドからしだいに高度を下げて、横別府で集落に出る。ここから九州自然歩道を外れて北西に5km行けば根占港となるので、ここで離脱したり補給に立ち寄ったりすることも可能。

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大隅ウインドファーム

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野首嶽から辻岳の稜線を歩く

 横別府から10kmほど進むと花瀬キャンプ場。ここの川は奇観。板のような岩でできた川の割れ目部分に水が流れる、水のない川なのだ。さらに7kmほど進んだ田代麓には商店がある。繰り返し言うが、佐多岬からこの小さな商店まで60kmほどは自販機以外の補給はほぼないと考えて行動した方が良い。

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雄川の花瀬の奇観

 田代麓から20kmほど先には吾平山上陵という、鹿屋市民が初詣に詣でる神代の皇族陵がある。九州自然歩道はこの先の飴屋敷から西に曲がり、陣の岡、横尾岳と20kmほど進む。飴屋敷から2kmほどコースを外れて北上すれば、吾平町の商店で補給をしたり、鹿屋市街地までのバスの便を得たりすることができる。

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吾平山上陵

 横尾岳からはいったん西に山を下り、海岸線に出る。松の美しい高須海岸を2kmほど北上した後、かのやばら園を経由して鹿屋までは20km。ばら園と鹿屋航空基地は必見。

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かのやばら園

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鹿屋航空基地

 鹿屋からの高隈山系縦走は覚悟がいる。標高100mにも満たない鹿屋の市街地から、標高1182mの御岳まで一気に登る。そこから稜線を伝って小箆柄岳(おのがらだけ、1149m)、大箆柄岳(おおのがらだけ、1236m)と歩き、垂桜、大野原集落に至る合計28kmの縦走路。しかも、集落に到着しても宿泊施設はなく、補給も垂桜集落と大野原集落の自販機のみ。冬期は積雪もあり、同時に桜島からの降灰も経験できる。

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高隈山系の稜線

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御岳

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大箆柄岳

 高隈山系縦走でホッとできるのは、大野原集落から東に10kmほど山を下ったところにある大隅湖が見えてからかもしれない。大隅湖の北端には農村研修村という宿泊施設があり、南端近くには先ほど出てきた鹿屋ゴルフ場がある。ゴルフ場のクラブハウスで食事をしたり、鹿児島空港連絡バスで鹿屋市街や国分、鹿子島空港へのアクセスを得ることができる。

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大隅

 大隅湖を出てから大隅エリアの終点となる国分までは比較的容易な道程。20kmほどで風力発電施設の建ち並ぶ上場高原のキャンプ場で身体を休め、さらに20km進めば国分キャンプ海水浴場と、ここからのコースは充実している。あまりに楽なので、九州自然歩道がこんなことでいいのだろうかと感じるほど。

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上場高原の風車群

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国分海岸で桜島を眺める

 

  1. 霧島エリア

 霧島エリアの交通拠点は、日豊本線国分駅霧島神宮駅霧島神宮駅霧島神宮は8kmほど離れているので注意がいる。ちなみに、JR霧島神宮駅霧島神宮との間にはバスが運行されており、10分程度かかる。

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霧島は日本発祥の地

 宿泊については、霧島神宮と丸尾温泉の周囲に複数の宿泊施設がある。また、新燃岳近くには新湯という秘湯で知られる新燃荘、韓国岳への登山口のえびの高原には、ホテルやキャンプ場がある。これらの宿泊施設は、韓国岳や大浪の池、新燃岳へのアプローチのために便利な宿である。

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いたるところから噴気が出ている

 それではコースの紹介を。まずは国分駅から20kmほど北上して霧島神宮に到着。国分-霧島神宮駅間は主要な県道を歩くので、交通量が多い。霧島神宮駅から先は県道を外れて快適な道となる。補給には問題はなく、温泉施設も数か所ある。

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霧島神宮

 霧島神宮からは7kmほど北上した湯之野温泉が分岐点。日程が許せば、そのまま北に進んで、韓国岳、大浪の池などを巡る霧島連山を堪能する1日を設定すべきと思う。ここはで天国のように素晴らしい光景を目にすることができる。

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韓国岳

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大浪の池

 九州自然歩道のハイカーズマップでは湯之野温泉から北東に進んで、新燃岳、中岳というコースが記載されているが、2020年の時点では火山活動の活発化のために利用できなかった。やむなく東の高千穂河原まで進み、鹿児島県最後の山となる高千穂峰に登って宮崎県との県境を越えることとなった。

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高千穂峰

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高千穂峰逆鉾


           もう一度歩きたい鹿児島県の道

 鹿児島県内の九州自然歩道をつまみ食いして歩いてみようかと思った人のために、おすすめコースを選んでみた。縦走を心おきなく楽しむため、スタート地点まで公共交通機関を利用したアクセスが可能で、ゴールから再び公共交通機関で帰宅可能なコースを厳選した。ただし、ゴールに到着した同日内に帰宅できるかどうかは保証の限りではない。

 反時計回りでの進行順に並べた。私家版「死ぬまでにもう一度歩きたい道」リストにエントリーしたものから5コースをピックアップ。最高は三ツ星。 

  1. 吹上浜串木野南さつま市加世田)☆☆☆

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どこまでも続く吹上浜の砂浜

 九州新幹線の停車する川内駅から鹿児島本線で2駅の串木野からのスタート。駅から西に1km歩いた長崎鼻灯台の先は東シナ海。沖には甑島が見える。1kmほども海に沿って南に向かえば白砂の美しい照島海岸。その先で八房川の河口を迂回して、湊町の大里川にかかる日の出橋を渡った先は、砂浜がどこまでも続くThe吹上浜。交通量の多い国道270号線を歩く部分もあるが、神之川を越えたらできるだけ国道を歩かずに海辺を歩いた方が良い。吉利(よしとし)よりも南は加世田を経由して小湊漁港あたりまで南薩鉄道の線路跡が快適な自転車専用道として残されているので、ここを歩かない手はない。日置-加世田間は、コースに並行してバスの便があるため離脱が容易。日本三大砂丘を踏破。

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南薩鉄道の線路跡を歩くのも良し

距離:55km
行動時間:16時間
補給:串木野(宿泊、温泉、食事、商店)、加世田(宿泊、温泉、食事、商店)、コース上に食事施設が点在

 

  1. 野間岳と坊津の海(南さつま市大浦干拓~片浦~野間岳~野間神社~女岳~坊津町秋目~今岳~坊津町坊)☆

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野間岳からの絶景

 南さつま市加世田から野間池行きのバスに乗り、景色が良く、交通量の少なくなる大浦干拓あたりから歩き始める。干拓地から先の国道226号線は、海沿いの切り立った崖にへばりつくような道を走っており眺望は抜群。片浦から国道を離れて野間岳の登山道に進み、2時間ほどで野間岳の頂上にたどり着く。頂上からの眺めは息をのむほどの絶景である。野間岳からは野間半島の西海岸に出て、沖秋目島を眺めながら10km進めば坊津町秋目に料理の美味しい宿がある。

 翌日も絶景を眺めながら歩くが、亀ヶ丘まではいくらか藪漕ぎを強いられる。坊津町坊までは鹿児島でも最も美しい海の眺めを堪能できる。今岳から南には並行してバス路線があるため、いつでも離脱して枕崎に向かうことができる。

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坊津の海は異次元の美しさ

距離:50km
行動時間:20時間
補給:加世田(宿泊、食事、商店)、坊津秋目(宿泊、食事)、丸木浜(キャンプ場)、坊津坊(宿泊、食事)、コース上に食事施設が点在

 

  1. 開聞岳と山川温泉群(JR開聞駅開聞岳長崎鼻~竹山)☆☆☆

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日本最南端の駅 西大山駅から見る開聞岳

 JR開聞駅で下車してから3時間で開聞岳の頂上。道に迷うところは一つもない。下山路からは反時計回りに開聞岳の麓を一周して海沿いに進む。開聞山麓自然公園、開聞温泉、フラワーパーク鹿児島、長崎鼻、児が水(ちょがみず)徳光温泉、山川砂蒸し温泉山川地熱発電所、奇岩の竹山など見どころが多数ある。コースのどこからでも、3~5km北に向かえばJR線路に突き当たるので中途離脱も容易。補給地点も多数。

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竹山

距離:30km
行動時間:10時間
補給:開聞(宿泊、食事、商店)、川尻(食事)、長崎鼻(食事・商店)、山川砂蒸し(宿泊、食事、温泉)、山川(宿泊、食事、商店)、コース上に食事・温泉施設が点在

 

  1. 佐多街道を佐多岬へ(根占~佐多岬)☆☆☆

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ゴールは佐多岬

 大隅半島の南部西海岸にある根占港をスタート。国道269号線の佐多街道をひたすら南に下る。右手には青い海、左手にはのしかかるような岩肌が迫る野首嶽。22km先の伊座敷には商業施設と宿泊施設。さらに20km進めば本州最南端の佐多岬に到着。帰りのバスは6km引き返した大泊から。

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覆道歩きも面白い

距離:48km
行動時間:15時間
補給:根占(宿泊、食事、商店)、伊座敷(宿泊、食事、商店)、大泊(キャンプ場、宿泊、食事)、コース上に自販機が点在

 

  1. 霧島神宮参拝から韓国岳、締めは高千穂峰で(霧島神宮~えびの高原~韓国岳~大浪池~新湯温泉~高千穂河原~高千穂峰~高原)☆☆☆

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霧島神宮

 霧島神宮周辺に宿をとり、参拝の後北に進む。いたる所から噴気が出る湯之野温泉を通過してえびの高原に到着。韓国岳、大浪池を歩いて、新湯温泉のある霧島新燃荘に宿泊。

 翌日は新燃荘から高千穂河原を経由して高千穂峰に登る。高千穂峰からは霧島東神宮に下山する。霧島東神宮近くの祓川バス停からは、平日のみだがJR小林駅行きの便が3本ある。これに乗車できなければ御池湖畔のキャンプ場に宿泊して、翌々日に5km先のJR吉都線高原駅まで歩いて帰途に着く。

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高千穂峰

距離:45km
行動時間:16時間
補給:霧島神宮(宿泊、食事、商店、温泉)、えびの高原(キャンプ場、宿泊、食事)、新湯温泉(宿泊、食事)、高千穂河原(キャンプ場、食事)、御池(キャンプ場)、高原(宿泊、食事、商店、温泉)、コースの途中には自販機を含めて補給は皆無

九州自然歩道 熊本県行程総括

九州自然歩道熊本県エリア

 熊本県天草市五和町鬼池港~熊本県人吉市久七峠
 2020年7月11日~2020年10月25日活動
 活動日数 28日
 距離630.6km 1056597歩 

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 北九州市八幡東区皿倉山を起点として、福岡県、佐賀県長崎県と歩き継いできたが、熊本県のエリアは歩行距離630kmと長く、踏破には28日を要した。

 大きくは、①天草の海を堪能するパート、②三角から熊本市の西部を北上して菊池川流域の歴史を味わうパート、③菊池渓谷から阿蘇カルデラ、南阿蘇外輪山、火砕流台地の沃野と大自然を満喫するパート、④落人伝説の五家荘、子守歌の五木、到達困難な球磨川源流域に到る秘境パート、⑤人吉盆地を経て鹿児島とを境する久七峠に到るパートの5つに分けることができる。今回はこれらのコースの概略と、攻略のカギをお伝えしようと思う。

            1.観海アルプスと天草五橋

 天草コースは長崎県島原半島の南端にある口之津港からフェリーで天草の鬼池港に渡るところから始まる。鬼池港のフェリーターミナルでは天草四郎像が正面でお出迎え。鬼池港周辺には宿もキャンプサイトもあるので、起点としては使いやすい。

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フェリーで鬼池港に到着

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天草四郎がお出迎え

 鬼池港から天草最大の都市である本渡市街(天草市)までのおよそ20kmは平坦な国道324号線を歩くが、交通量が多く危険。歩道のないところもある。また、この部分は意外と海の見えるところが少なく、さっそく天草の海を、と思っていたところで拍子抜けするかもしれない。

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本渡までは国道歩き

 本渡市街には多数の宿泊施設や飲食店、商業施設がある。ここである程度補給をして、現在は人道として供されている赤い瀬戸歩道橋を渡ってからは自然歩道らしい道になる。小高い山に入った後は、柑橘系の畑が続く。次の栖本までは約15kmで、ほぼ舗装路。ただし本渡~栖本間には一切の補給、水場はない。栖本には商業施設、2つの宿泊施設、温泉がある。

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本渡からは瀬戸歩道橋で水道を越えて上島に

 栖本から先は歩きがいのある景色を堪能できる素晴らしいコースが始まる。まずは倉岳(標高682m)に登る。ここは栖本からの上りも、瀬棚までの下りもアプローチが長い。下った瀬棚にはいくつかの飲食店と商店がある。この商店は、これから進む観海アルプスのコース上の最後の食料品の補給場所となる。

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倉岳頂上

 瀬棚からは龍ヶ岳(標高469m)まで一気に高度を上げる。頂上からの眺望は素晴らしい。また頂上近くには天文台と有料キャンプサイトがある。キャンプサイトには水場、シャワーがあり、天文台には自販機がある。栖本から龍ヶ岳のキャンプサイトまでは30kmを超える距離があるので、1日で歩くには少し脚力を要する。

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瀬棚集落

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龍ヶ岳頂上

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龍ヶ岳頂上に近いミューイ天文台

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龍ヶ岳キャンプ場

 龍ヶ岳からは尾根伝いのコースとなる。標高は高くはないが、不知火海から切り立った尾根を歩くこの道程は、まさに観海アルプスだと実感できるであろう。ピークだけでなく、いくつかの展望箇所からすばらしい眺めを堪能することができる。

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龍ヶ岳から白嶽に向かう観海アルプス縦走路

 次のメジャーなピークは白嶽(372m)。ここは宗教の山。コース途中の矢岳神社あたりには、ドルメンと呼ばれる、巨石を組み合わせた古代の祭祀の舞台がある。龍ヶ岳から白嶽までの行程は20km弱。白嶽頂上付近にはキャンプ場があるが、持ち込みテントは不可。

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白嶽のドルメン

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白嶽頂上

 白嶽から上天草最北端の松島温泉までは11kmほど。観海アルプスから下る前に高舞登山からの景色は楽しんでもらいたい。天草の島々が一望できる絶景スポットである。

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高舞登山から眺める天草の島々

 松島温泉には多数の宿泊施設と飲食施設、商業施設がある。ここから天草五橋を渡って三角に向かう。第5橋から4、3、2と続いて渡るが、いずれも景色は素晴らしい。ただし、この道路は国道266号線で、交通量は非常に多く、せっかくの景色は自動車の騒音で十分に楽しめない。第2橋を渡り終えたら大矢野島に入るが、ここからは国道を離れ西海岸を歩くが、この海岸線の景色はすばらしい。松島から三角まで25kmは補給には苦労することはない。1号橋を渡った三角には宿泊施設がある。

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松島から5号橋を渡る
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    2号橋

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    途中に観光施設も多い

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    最後に1号橋を渡って三角に渡る

    2. 三角から北上した後に菊池川を遡行する歴史のコース

 天草を離れた三角からは。まず三角山(406m)に登り、半島の脊梁を歩く。脊梁とはいっても200mほどの標高。柑橘畑の中を歩く道である。しかし、この柑橘畑の中を歩くコースがたまらなく良い。20kmほど進んだ石打ダムでJRの駅の横を通過するため、ここを中継点とすることもできる。

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三角のシンボル 海のピラミッド(三角港フェリーターミナル)

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三角山に登る途中では1号橋や天草の島々が一望できる

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宇土半島では柑橘系の畑の中を歩く

 石打ダムから次の中継地は23km先の宇土市街になる。ここには複数の宿泊施設、商業施設がある。宇土には城址や古い町並みが残り、見逃すのは惜しい。

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宇土の街並みも落ち着いたいいところ

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宇土からは金峰山が見えてくる

 宇土からは熊本市の名峰金峰山(665m)を目指して歩く。熊本の市街地を眼下にする金峰山から西に下り、宮本武蔵五輪の書を記した霊厳洞に到る。さらに二の岳(686m)、三の岳(682m)を越えて田原坂の戦跡に向かう。ここではJR田原坂駅を通過。さらに進むとようやく多数の宿泊施設のある温泉地の玉名となる。この間の距離は90km弱。宇土から玉名のあいだはコース上に宿泊地を得るのが困難なパートであるが、コースを外れて熊本市街に行けばいくらでも宿泊施設は見つかる。

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雲厳禅寺霊厳洞

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二の岳

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田原坂公園 西南戦争の弾痕の残る家

 玉名から菊池は、菊池川に沿った歴史を味わうことのできるパート。コースから少し外れるが、玉名市街の菊池川の水運で栄えた町の様子が残るエリアは是非見てもらいたい。玉名からは小岱山系を登り、20kmの歩行で菊水に到る。菊水には驚くほど多数の古墳群がある。素通りせずに、ぜひ古墳のいくつかは覗いてもらいたい。石室を間近で見られるものもある。菊水には宿泊施設もある。

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玉名もいい町

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小岱山からは海を隔てて雲仙が望める

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菊水 江田船山古墳

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菊水 塚坊主古墳

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菊水 トンカラリン

 菊水からはこれといって見所のない山道を20km近く歩かなければならないが、菊池川を渡った先の山鹿の市街地にはそれを補うだけの価値を感じるはずだ。金剛乗寺の山門をくぐり、巨大な木造の劇場である八千代座を覗いた後は、桜湯に浸かって身体をほぐしてもらいたい。山鹿からは日輪寺、不動岩を経て、国道325号線バイパスを通って菊池市街まで30km。バイパスの日陰のない道を延々と歩くのが最後の難所。菊池は古い町並みの残る魅力的なところで、温泉、宿泊施設ともに充実している。

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山鹿 金剛乗寺山門

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山鹿 八千代座の内部

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山鹿 さくら湯

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菊池 菊池武光公像
  1. 阿蘇カルデラを北から登り南外輪山を経て火砕流台地を下る

 菊池から東に進んで高度を上げていくと、阿蘇カルデラの領域となる。阿蘇の外輪山から流れ出る清冽な水で刻まれた菊池渓谷は、渓谷の両側に遊歩道が設置された人気の観光スポット。菊池市街から菊池渓谷は17kmほどあり、その先は外輪山の北縁(標高950mほど)を経由して、外輪山を下った先の温泉地まで合計40kmほどあるので、ここを通して歩くには覚悟がいる。ただし、その苦労を補ってあまりある光景を楽しむことができる。

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菊池渓谷

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阿蘇外輪山兜岩からカルデラ内を眺める

 阿蘇駅周辺からは、高岳(1592m)、根子岳(1433m)の間を通過する日ノ尾峠(990m)を越える23kmの経路で高森に到る。本来ここは牧草地を歩くコースとして仙酔峡経由で設定されているが、2020年の時点では仙酔峡と日ノ尾峠を繋ぐ道路が崩落しているため、東側の舗装路を歩く。また、日ノ尾峠から高岳および根子岳に向かう登山道があるが、高岳は火山活動によって、根子岳は登山道の崩落と、状態によってはいずれに進むことも難しい場合がある。

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日ノ尾峠

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高森から眺める阿蘇高岳

 高森周辺には宿泊施設が多数あり、名物の田楽を食べさせてくれる施設もあるので、是非ゆっくりしてもらいたい。高森からはグングン高度を上げて阿蘇南外輪山に登る。寄り道になるが、清栄山(1005m)は根子岳を正面に望む眺望の良い山。南外輪山に到った後は、草原や低木の中を歩くが意外とアップダウンがある。ときに素晴らしい眺望があるが、南外輪山周回路の整備状況は2020年の時点では極悪。歩き終えた後は露出した部分は傷だらけで、藪漕ぎのエキスパートになっているはずだ。

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南外輪山から見る根子岳

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南外輪山の草原

 南外輪山の駒返し峠からは南下して、カルデラ火砕流台地として形成されたなだらかな地形の森林帯をゆっくりと高度を下げていく。笹原集落で通潤橋の水路の円形分水を経由して、ほぼ水路に沿って通潤橋まで歩く。高森を出てから通潤橋まで約60kmは食糧補給なし。外輪山の清水峠に1台の自販機があるのみで、台地を下りるまでは水場もないので、このコースは補給には注意がいる。通潤橋には道の駅、宿泊施設があり、ここで息を吹き返すことになる。

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通潤水路の起点となる円形分水

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通潤水路

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通潤橋
  1. 川の流れがとろけるように美しい秘境エリア

 通潤橋から湯前までの130kmの区間は秘境エリアである。どこで九州自然歩道を離脱しても公共交通機関までの距離が長く、たどり着いたバス停からの便数は少なく、商店もなかなか見つからず、補給に難渋することこのうえない。しかし、それを上回る非日常感が得られる区間でもある。

 ここまで読んでこの区間をスキップしようと思う人が出ると困るので、最初に中継可能地を挙げておこう。

 ①通潤橋:秘境エリアのゲートウェイ。熊本から1日数本のバスがある。

 ②砥用(ともち):美里町の中心地で、スーパーがある。通潤橋から35km先。熊本から1日数便のバスがある。

 ③五木村頭地:五木村役場の所在地。九州自然歩道からは少し外れる。砥用から50km先の竹の川からコースを外れて南に8km歩いた地点。五木町の中心地で、人吉行きのバス便が1日数本ある。頭地には宿泊施設、商業施設、温泉施設などがあり、秘境のオアシスである。

 ④湯前(ゆのまえ):人吉から湯前をつなぐ湯前線(現くま川鉄道)の終点。竹の川から60km先。湯前から先の人吉盆地は開けている。湯前には商業施設、食堂、温泉施設があり、人吉行きのバスがある。

 以上のように、秘境というわりには、ほどほどの間隔で中継可能地点が存在しており、少し走る覚悟があれば週末のみでもなんとかなる状況である。逆に言うと、砥用から湯前までの110kmは公共交通機関へのアクセスが困難な区間で、携帯の電波も入りにくいエリアを歩くことができるので、下界と一切の連絡を絶つ修行としてはもってこいである。

 さて、長くなったがコースの概要を。通潤橋までは熊本市街から乗り換えなしのバスで行くことができる。通潤橋の道の駅では食料をある程度用意した方が良い。五老ヶ滝を過ぎ、通潤水路で潤った豊穣の地を歩いた後は、幾重も繰り返す山道を下って内大臣峡に下る。この地名から分かるように、平家の落人集落として知られており、すこぶる美しい自然が残る。内大臣峡には美味しい川魚を提供してくれる民宿(平家の湯 Tel.0967-72-0496)が1軒ある。

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五老ヶ滝

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通潤水路によってもたらされる豊穣

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素掘りのトンネルをくぐって内大臣峡に

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内大臣峡は遥か下に

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内大臣川が素晴らしく美しい

 内大臣峡から下流に進むと美しいアーチの内大臣橋が見えてくる。高度を上げて内大臣橋のたもとを過ぎ、さらに橋をかなり下に見下ろす山の中腹まで登ってから、素掘りのトンネルをくぐって里山エリアに出てくる。霊体橋を過ぎて砥用。砥用にはスーパーマーケットがある。ここがほぼ最後の食料調達地点となる。

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内大臣橋がはるか下に

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霊台橋

 砥用からは国道445号線を南に進む。最初は2車線の立派な道路でさすが国道と油断させておいて、人家が途絶えると1車線の離合困難な道になる。交通量はほとんどないので安心して歩くことができる。標高1107mの二本杉峠を過ぎると東山商店という土産物店兼食堂がある。ここが最後のワンチャンス。蕎麦が美味しい。この先は国道を離れて大金峰(標高1396m)に上り、栴檀轟の滝を経て、五家荘の集落となる。集落といってもポツリポツリと藁葺きの家があるだけである。民宿をしているところもあるが、水害のため営業を中止している(2019年時点)。五家荘ではやむなく野営をしたが、撤収中に通りかかった男性から菅原道真の49代目の末裔だと聞かされて、ひれ伏しようかと思うぐらいビックリした。

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砥用からは深い深い山に進む

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1107mの峠を越える

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栴檀轟の滝

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五家荘

 五家荘からは球磨川の支流の川辺川に沿って下流に進む。川に沿ってとは言っても、水面は谷のはるか下の方にあり、なかなか美しい水面には到達しない。はるか上の山の中腹で何度もスイッチバックを繰り返して高度を下げ、ようやく椎原集落に着いた後に、水面を見ながら進む。こんな水の色があっていいものだろうか。碧色のかかった乳白色の水に驚くだろう。

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川部川の水の色には驚かされる

 椎原からは国道445号線に復帰して南下する。酷道ともいわれる離合の困難な区間の多い1車線の細い道で、季節にはよると思われるが、交通量はほとんどない。椎原と宮園集落には小さな商店がある。

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進めども進めども秘境がつづく

 竹の川から九州自然歩道は東に折れ、下梶原川を上流に遡る。食糧が尽きてしまったり、仕事の都合で帰る必要がある場合には、竹の川から九州自然歩道を外れて川辺川を8km下れば、五木村頭地という秘境のオアシスに行くことができるので、地図を最大に拡大しないと見えない竹の川という地名はよく憶えておく必要がある。また、竹の川から球磨川源流にかけての区間は、九州自然歩道の消失の程度が最も著しいところでもあるので、その点からも重要な地名である。

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下梶原川沿いの天狗岩

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下梶原川も限りなく美しい

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下梶原集落から白蔵峠、水上村へと続く九州自然歩道本線は広範囲の通行止め

 先行する蛸鹿情報を参考にして、一昨年ここを通過したヤマトホのコースを見つつ、自分は竹の川から九州自然歩道のコースどおり下梶原川を遡り、下梶原集落から先の白蔵峠とその先の数kmにわたるとみられる九州自然歩道の崩落部分を回避して、下梶原からは谷の反対側の斜面に進み、日当の林道をぐるりと南に迂回して白蔵越を越えて、川辺川系の谷から球磨川本流の谷に出て、湯前まで南下した。

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う回路は標高1000mを越える林道

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う回路にもときおり崩落地点がある

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球磨川源流域にたどり着く

 次のログで、できるだけ球磨川源流に遡った湯山から再スタートしている。川辺川と球磨川を繋ぐ球磨川最源流域の道路事情については、当地の白水集落で営業していた民宿に電話をして確認したが、数年間にわたって両方の谷を結ぶ道路は通行止めになっているとのことであった。

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球磨川源流域には各所に崩落部分が残る
  1. 人吉盆地を経て鹿児島県境まで

 熊本県の最後は、球磨川の源流から湯前、多良木、人吉と、球磨川によって形成された人吉盆地の肥沃な地域を下る。道路に沿った町並みに石蔵が残っており、豊かな穀倉地帯であることがわかる。湯前(湯山温泉)から人吉までの50kmの区間は、人家が多く、舗装路を歩く部分が多いので、補給に困ることはない。交通量が多いので、自動車に気を付ける必要がある。九州自然歩道に並行する道路もあるので、無理をして県道を歩かず、川に沿ったのんびりした道を選択するのも手である。

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奥球磨ループ橋

 人吉盆地の中間地点の多良木での宿泊はコース近くにブルートレインの車両を利用した宿(ブルートレインたらぎ Tel.0966-42-1120)があるので、ぜひここを利用してもらいたい。人吉は熊本県南部の中核都市で、温泉、宿泊施設、商業施設などが多数あり、公共交通機関の拠点である。本来はJR肥薩線湯前線(現在は第3セクターくま川鉄道)のターミナルであるが、2020年7月の水害のため、両線ともに運休しているのが悲しい。人吉市内には、まだ2020年7月水害の痕跡が多数残っている。

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ブルートレインたらぎ

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球磨川源流域の秀峰 市房山

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くま川鉄道の鉄橋の向こうには人吉の市街地

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無残!肥薩線も運休中

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古くから栄えた人吉市街には見どころが多い

 人吉から鹿児島県との県境となる久七峠までは20kmほど。人吉から5kmほどの鹿目の滝は、コースから谷を下りる必要があるが必見。日本の滝百選に選ばれている壮大な滝である。赤仁田集落から鉾立山に至る5kmほどが山道で、あとは舗装路である。県境手前3kmにある田野集落には自販機がある。

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鹿目の滝 日本の滝百選

 

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久七峠 熊本-鹿児島県境


           もう一度歩きたい熊本の九州自然歩道

 ちょっと熊本県内の九州自然歩道を歩いてみようかと思った人のために、おすすめコースを選んでみた。スタート地点まで公共交通機関を利用してアクセス可能で、縦走をした後にゴールから公共交通機関で帰宅可能なコースである。反時計回りでの進行順に並べた。私家版「死ぬまでにもう一度歩きたい道」リストにエントリーしたものからピックアップした。最高は三ツ星。

  1. 観海アルプス(天草市栖本~上天草市松島)☆☆

 天草随一の山コース。標高は低いものの、八代海に真っすぐ落ち込む稜線からの眺めは最高。整備状況は良好で、標識の設置状況もまずまず。エスケープは瀬棚、二弁当峠、金比羅山手前の峠で可能。コース上の補給は貧弱だが水は得られる。通常の歩行速度で通しで歩くと2泊を要する。

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観海アルプスのゴール 高舞登山からの眺め

距離:約60km
行動時間:約60時間
補給:栖本(宿泊、食事、商店、温泉)、棚底(食事、商店)、龍ヶ岳キャンプ場(宿泊)、白嶽キャンプ場(宿泊)、松島(宿泊、食事、商店、温泉)

 

  1. 天草五橋上天草市松島~宇城市三角)☆

 天草五橋を歩いて渡り、大矢野島の西海岸を進むコース。五橋とそのアクセス道路からの眺めは非常に良いが、主要なコースが国道であるため交通量が非常に多く、歩行には快適とはいいがたいため星一つ。100%舗装路。

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天草五橋の1号橋から天空橋(自動車専用道)を望む

距離:約25km
行動時間:約8時間
補給:コース上に宿泊、食事、商店、温泉施設ともに多数

 

  1. 一の岳、二の岳、三の岳(熊本市西区島崎~熊本市北区植木町田原坂)☆☆☆

 JR熊本駅から北に1kmほどの位置を九州自然歩道は通過しているため、起点へのアクセスは容易。ここから金峰山(一の岳)、二の岳、三の岳と歩き継いで、西南戦争の激戦地の半高山を経てJR田原坂駅に至る。金峰山からの眺望が素晴らしい。金峰山の下山路から半高山に至るまで柑橘畑の中を歩くのも魅力的。

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西に金峰 東阿蘇

距離:約30km
行動時間:約13時間
補給:熊本市街(宿泊、食事、商店、温泉)、金峰山登山口(自販機)、岩戸観音(自販機)、下川床(自販機)、古閑(食事)、野出(自販機)、田原坂(自販機)

 

  1. 阿蘇カルデラの北縁を越える(菊池市菊池渓谷阿蘇市内牧温泉)☆☆

 菊池渓谷の清流を遡り、標高900mほどの阿蘇外輪山の北縁に至ると風景が一変する。東西18km、南北25kmにもわたる巨大なカルデラと、その中で噴煙を上げる高岳を眺めながら、北外輪山を降下して内牧温泉に至る。北外輪山からカルデラ内部への真っ直ぐな下降路は2020年時点では完全に流失していたので、う回路を使う必要がある。

 スタート地点の菊池渓谷までは菊池市街から乗り合いタクシーがある。カルデラの内部に下降すると内牧温泉から高速バス、その先にはJR阿蘇駅がある。

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阿蘇外輪山兜岩展望所からカルデラ内を眺める

距離:16km
行動時間:6時間
補給:菊池渓谷レストハウス(食事、自販機)、兜岩(食事、自販機)、内牧温泉(宿泊、食事、商店、温泉)

 

  1. 阿蘇カルデラ内部を縦断(JR宮地駅~高森)☆☆☆

 JR宮地駅から日ノ尾峠を越えて高森まで進むコース。すべて舗装路だが、牧草地の中を歩く美しい道のり。2020年の時点では仙酔峡と日ノ尾峠を繋ぐ道路が崩落しているため、東側の舗装路を歩くことになる。日ノ尾峠から高岳根子岳に登ることも可能。

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日ノ尾峠に向かって高度を上げる

距離:20km
行動時間:6時間
補給:宮地(食事、自販機)、高森(宿泊、食事、商店、温泉)

 

  1. 阿蘇南外輪山(高森~駒返峠)☆☆☆

 外輪山を歩くダイナミックなコース。高森から黒岩峠で南阿蘇外輪山に到達してから、外輪山の縁に沿って歩き、高森峠、中坂峠、長谷峠、高千穂野、天神峠、駒返峠まででおよそ25km。九州自然歩道は駒返峠から南下するが、外輪山はさらに西に、地蔵峠、護王峠、俵山と続き、あと15kmほど進めばJR立野駅に出ることができる。駒返峠から北に8kmほど進めば南阿蘇鉄道中松駅に出ることができるが、立野までの鉄道は運休中。このコースは駒返峠からの帰途にやや困難を伴う。

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南外輪山から高岳を眺める

距離:25km
行動時間:14時間
補給:高森(宿泊、食事、商店、温泉)、清水峠(自販機)

 

  1. 通潤橋がもたらす豊穣の沃野(通潤橋~砥用)☆☆

 通潤橋から白糸台地を歩き、緑川上流の内大臣川に沿って下り、美里町の市街の砥用に至るコース。ほとんど舗装路だが、交通量は少なく田園風景が楽しめる。白藤から内大臣川に下るつづら折りが愁眉。緑川ダム、霊台橋という観光スポットも通過するが、実りの時期の圃場や内大臣峡の自然に勝るものはない。

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秋の沃野は黄金色

距離:33km
行動時間:13時間
補給:通潤橋(宿泊、食事、商店)、笹月(自販機)、内大臣(宿泊、食事、自販機)、夏水(自販機)、緑川ダム(食事、商店)、霊台橋(食事、商店)、砥用(食事、商店)

 

  1. 熊本の秘境(砥用~五家荘~竹の川~湯前)

 砥用から国道445号線を歩き、山道に入って大金峰を上った後に栴檀轟(せんだんとどろ、轟とは滝のこと)、五家荘を経て、椎原から国道445号線に復帰し、さらに竹の川を経由して下梶原から標高1000mの林道を歩いて、白蔵越から林道を下って湯前までというのが、熊本県人もほとんど行ったことのないような最奥部の秘境コース。こんなコースを草鞋で未舗装路の状態で歩いた古の人たちは、サバイバルレースに出たら上位に入賞できると思う。通しで歩けば85kmであるが、竹の川から8kmで五木村の中心地に出ることも可能。2020年9月時点では五家荘の宿泊は休止中。竹の川と湯前の間には補給はなく、また道路の崩落のためコースは定まらない。

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球磨川流域の水の色は別格

距離:85km
行動時間:28時間
補給:砥用(食事、商店)、二本杉峠(食事、商店)、五家荘(自販機、宿泊)、椎原(商店、自販機)、宮園(商店、自販機)、竹の川(商店、食事、自販機)、湯前(食事、商店、温泉)

九州自然歩道 長崎県行程総括

 2020年7月5日に九州自然歩道長崎県エリアを歩き終えた。佐賀県との県境の国見岳からスタートし、稜線を伝って早岐に出てから西海橋まで歩き、西海の山中を数日かけて長崎まで進んだ後、諫早南部の山中から橘湾に出て千々石断層に沿って高度を上げ、雲仙から島原半島を縦断して南端に位置する口之津に至るまでの256.1kmの行程だった。

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 コースの最初は、佐賀県伊万里市にある松浦鉄道の駅である山谷をスタートして国見岳(国見山、777m)の頂上に至ったところから始まる。国見岳からは稜線を伝って佐世保市郊外の隠居岳まで歩き、いったん早岐の市街地に出る。その後は、早岐瀬戸を経由して、舗装路とミカン畑の中を繰り返しながら渦潮で知られる西海橋に着く。コース中の見どころは、佐世保湾早岐瀬戸を一望できる隠居岳。ここには良く整備されたキャンプ場もある。針尾島の江上浦に沿った南向き斜面のミカン畑の中を歩く道は温かい日差しと潮風が心地よく、忘れられない。

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国見岳の頂上から長崎県に入る

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稜線は佐世保市につながる

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佐世保市郊外の隠居岳

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隠居岳からは佐世保湾が一望できる

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早岐の町の背後に隠居岳

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江上浦のミカン畑の中の道は記憶に残る

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渦潮で知られる西海橋

 次は、西海橋からは西彼杵半島を縦断して長崎市街まで歩く。ここは有名な観光地には乏しいものの、豊かな自然とミカンやジャガイモ畑の中をゆったりと歩くことができるのんびりしたコース。行程の多くが簡易舗装やコンクリート舗装されており、歩きやすい。コース全体で100km近く、途中で補給可能なところが少ないのが難点。コース上の道の駅さいかいでは、各種の柑橘系を楽しむことができる。長崎県民の森には整備状態の良好なキャンプ場がある。長崎の市街地に入る前には、岩屋山(475m)から街並みを眺めてから市街地に至る。

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大村湾に面したのどかな漁村

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西彼杵の山からは佐世保湾が見える

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道の駅さいかいにはみかんドームの愛称

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虚空蔵山展望台から振り返れば西海橋が見える

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西彼杵半島の沖合の大島

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七ツ釜鍾乳洞に立ち寄ることもできる

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西彼の道にはミカンが似合う

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ツガネ落としの滝も観光名所

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コースの大半は舗装路で整備状態は良好

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岩屋山の頂上から長崎市街を眺める

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長崎の市街地には数多の観光名所

 長崎市街からは山越えの後で、長崎街道沿いの道を歩く。長崎街道沿いには多くの史跡が残されており、かつての往来の雰囲気を味わうことができる。諫早の南部の山中を1日かけて横断し、南に折れて、広大なジャガイモ畑の中の道を歩いて橘湾の海の見える台地の上を歩く。海岸線に沿った道に出てからは、雲仙を正面に眺めながら千々石の町に進むコースは圧巻。美しく整備された千々石の町の防風林も見応えがある。

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長崎市街地から山越え

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長崎街道をたどって諫早まで

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日本昔話のような風景が残る

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一面のジャガイモ畑の向こうに橘湾が見えてくる

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千々石の海岸線の向こうには雲仙が雲を纏う

 最後は島原半島を縦断する行程。千々石の町から正面に聳える千々石断層の西端から取りかかり、断層の縁に沿って高度を上げていく。一段と高く聳える九千部岳(1062m)は6月のヤマボウシの時期がお勧め。雲仙岳はもちろん素晴らしい山々が連なる。5月のミヤマキリシマや紅葉の時期、樹氷の時期のいずれも楽しめる。登山のあとは、雲仙温泉街で白濁したお湯を楽しみ、島原半島南端の口之津までおよそ30kmの下りの道を歩けば、長崎県内のコースは踏破したことになる。

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千々石は橘神社が起点となる

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千々石断層に沿った山々

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田代原にはキャンプ場

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九千部岳ヤマボウシの名所

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6月がヤマボウシのシーズン

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雲仙の山並みが近づく

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雲仙で現在登ることのできる最高地点が普賢岳(1359m)

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雲仙のミヤマキリシマのシーズンは5月

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雲仙の温泉街では地獄の見物

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秘湯の小地獄温泉

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雲仙の南の高岩山が最後のピーク

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論所原にはオートキャンプ場

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諏訪の池にはテントサイト

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畑の中の道をゆっくりと進む

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島原半島の南の海が見えてくる

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ゴールは口之津フェリーターミナル


九州自然歩道長崎県エリア 2020年2月29日~7月5日 活動日数 13日 長崎県松浦市国見岳(2020年2月29日)~長崎県南島原市口之津港(2020年7月5日) 距離256.1km 439223歩

九州自然歩道 佐賀県行程総括

 九州自然歩道佐賀県のコースは、佐賀県の北東の角にあたる基山(きやま)の山頂からスタートする。福岡県との県境となる背振山系を縦走し、金山(かなやま)から北山(ほくざん)ダム、古湯温泉、天山(てんざん)へと進み、武雄市の北部の女山八幡岳眉山を縦走し、奇岩で知られる黒髪山を越え、山谷の集落から長崎県との境界となる国見岳に至る148.3kmの行程。

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 まずは基山(404m)に向かう。基山は福岡の太宰府方面、佐賀県基山駅方面からなど、いくつかのアプローチがある。かつては基山の頂上には基肄城(きいじょう)という太宰府を守るための山城が建てられていた場所。眺望が良く、太宰府から佐賀平野まで一望できる。基山からは権現山(626m)、九千部山(847m)、石谷山(754m)と稜線を縦走し、七曲峠でいったん五ヶ山ダムの近くにまで下りてくる。五ヶ山ダムには昨年モンベルが整備したキャンプ場が開設された。五ヶ山ダムの坂本峠からは再び高度を上げ、蛤岳(862m)を経て、背振山系の主峰の背振山(1055m)に到着する。背振山山頂近くにはキャンプ場と自動販売機を見つけることができるが、基山から背振山に至る30kmほどのコース上には補給地はまったくない。

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基山山頂

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基肄城跡

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基山山頂から眺める佐賀平野

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基山から背振山に続く山なみ

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九千部山頂

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蛤岳山頂の蛤石

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背振山南面の木道

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背振山

 次のパートは背振山から。背振山から鬼が鼻岩(802m)を経て金山(967m)に至る6kmほどの稜線の縦走路は、クマザサと低木の広葉樹に覆われた素晴らしい山道。4~5時間かけて歩く。眺望も良く、ここはもう一度歩いてみたい山道。福岡市が一望できる金山から南に向かって下ると1時間ほどで山中キャンプ場に至る。ここには自動販売機もあり、一休みするには適当な場所。ここから先は舗装路で、まばらながら人家やときおり商店もあり、補給が可能なエリアである。自動車も通行するため、若干野趣にはかけるコースかもしれない。コース中で国道263号線と交わる辺りの野菜市場まっちゃんは、地元の野菜や果物が手頃な値段で販売されており、また食堂もあるので、ぜひ立ち寄ってもらいたい。そこから30分ほど歩いた北山ダムの湖畔には北山キャンプ場があり、無料でテントを張ることができる。北山キャンプ場から舗装路を歩いて12kmほどで山間の古湯温泉に至る。古湯温泉には英龍温泉というかけ流しの銭湯があり、筋肉の凝りをほぐすことができる。宿泊施設も多数あるので、温泉に宿泊するのも良いかもしれない。こじんまりした気取らない湯治場で、ゆったりとした時間を過ごせるだろう。

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背振山からの心地よい稜線の道

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鬼ヶ鼻岩から稜線を振り返る

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北山ダム湖

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北山ダムキャンプ場

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古湯温泉

 古湯温泉からも5kmほど舗装路が続く。しかし交通量は少ないため、自動車に煩わされることはあまりない。七曲峠の天山登山口からようやく山道に入る。それほど急ではないが、長い稜線を2時間ほどかけて歩いてようやく天山の山頂(1046m)に到達することができる。山頂は笹に覆われた306度の視界の素晴らしい眺望。しかし、多久市に向かう下り道も長く、またタフな山道。5kmほどの下りに2時間ほどかける覚悟がいる.多久市の岸川集落まで下りれば自動販売機にたどり着くことができる。ここから笹原峠まではすべて舗装路。コースから少し外れるが、笹原峠から1kmほど先の道の駅厳木(きゅうらぎ)では食糧の補給ができ、厳木の町には温泉がある。

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天山スキー場まで続く舗装路

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天山の山頂までの長いアプローチ

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天山山頂

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天山の先の岸川集落

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道の駅きゅうらぎ

 笹原峠からは1時間足らず山を登れば多久市船山キャンプ場に到着する。ここはよく整備された景色の良いキャンプ場。タイミングが合えばぜひここに泊まってみたい。ここからさらに1時間ほど登ったところが女山(695m)の頂上で、ここも眺望が素晴らしく、天山、有明海、雲仙とすべて見渡すことができる。女山を下りたところにも八幡岳キャンプ場があり、ここも雰囲気は良好。キャンプ場から1時間ほどで八幡岳(764m)の頂上に着く。ここも眺望は良好。山頂付近にはオオキツネノカミソリの群生地がある。

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天山を正面に眺める船山キャンプ場

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女山頂上からの眺望

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八幡岳山頂

 八幡岳から眉山(518m)までの山道は整備状況がよくない。ところどころ行き先を見失うかもしれない。眉山を下ったところにも眉山キャンプ場が設置されている。ここから2時間ほど林道を歩くと桃川(もものかわ)の集落に到着する。ここには小さな商店と飲食店があり、補給ができ、JR唐津線桃川駅もある。

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眉山キャンプ場

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眉山からの山道

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桃川駅

 桃川からしばらくは舗装路を進むが、4kmほどで山道に入る。このあたりは九州自然歩道の中でも目立った山のないパートであるからか、踏み跡は少なく、道は荒れている。標識もあまり設置されていないので、地図をよく見て進む必要がある。標高368mの黒岳がわずかなピークで、桃川からここまで4時間ほどかかる。黒岳から先の道のりも、整備状況はよくない。30分ほどで赤田の集落に至る。ここからは迷いやすいところがあるが、ほぼ舗装路となり、黒髪少年自然の家にたどり着く。ここには自動販売機があり、一息つくことができる。黒髪山のシンボルの奇岩も、木々の間に見え隠れしてくる。この先1kmほどにはいこいの森キャンプ場があり、快適にテントを張ることができる。2kmほどさきには黒髪の森天童温泉があり、トロトロのお湯を楽しむこともできる。

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桃川の先は踏み跡が少なくなる

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赤田集落辺りから黒髪山が見え始める

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いこいの森キャンプ場

 いこいの森キャンプ場から舗装路を1時間ほど歩き、登山道から2時間ほどで黒髪山(561m)の頂上に至る。最後は鎖場になっている。山頂は素晴らしく眺望がよい。

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黒髪山の奇岩

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黒髪山登山口

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黒髪山頂上からの眺め

 黒髪山から竜門ダムまでは最初は稜線、次いで川沿いの心地のよいコース。竜門ダムの最上流部には黒髪自然の家があり、テントサイトがある。ここには自動販売機と飲食店がある。

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竜門ダムに続く川沿いの道

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黒髪自然の家

 ダム湖から先の山道は崩落しており、通行は困難。回り道をした方が無難である。集落が近づくと見事な棚田を見ることができる。棚田を過ぎると松浦党の本拠が置かれていた唐船城が見え、山谷の集落に至る。ここには自動販売機と松浦鉄道の山谷駅がある。山谷の正面に聳えるのが長崎県との県境になる国見岳(777m)。頂上までは3時間ほどかかる。この道のりにも見事な棚田がある。ここで佐賀県内のコースは終着点となる。

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見事な棚田

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山谷の集落と国見岳

 

九州自然歩道佐賀県エリア 2020年1月12日~2月16日 活動日数 8日 佐賀県三養基郡基山町基山(2020年1月12日)~佐賀県伊万里市国見岳(2020年2月16日) 距離148.3km 294100歩