テントの外が明るくなってきた。鶯の声が聞こえる。雨の音は聞こえない。時間を見ると5:45。昨日の時点の天気予報では諫早市の6:00の降水確率は80%。神様が願いを聞いてくれたようだ。
テントの外に出てみたが、周りの草地も濡れていない。日の出の前ということもあるが、空は真っ黒で今にも雨が降り出しそう。少し早いが、雨が降り出す前に撤収して行動を開始したい。雨でぐっしょりになったテントをバックパックに詰めるのと、乾いたまま撤収を終えるのとでは気分は大違いだ。いつもはコーヒーを飲んでから行動を開始するが、今日はサクサクと撤収作業を進め、6:36に歩き始めた。
昨日の碁盤の辻は眺望を期待していただけにがっかりだったが、ここから土師野尾(はじのお)集落までの下りの山道は快適だった。簡易舗装の山道で、舗装の痛んだところにはきっちりメインテナンスがしてある。ついこの前コンクリートを流したようなところもある。
7:02に土師野尾の集落に出たが、途中の案内標識がなく、本来のコースよりも集落の奥にあたる少し西のところに出ていた。
缶コーヒーを飲みながら散歩をしていたおじさんから声をかけられ、土師野尾の地名の由来、この集落が守る八天岳の天狗の話などを聞かせてもらう。土師野尾の名は豊臣秀吉が朝鮮の役の際に連れてきた土師、すなわち陶工に由来するとのこと。佐賀にもそんな有名な窯があったが、ここにかつてあった土師野尾焼も半島に由来するよう。100年以上前に土師野尾焼は廃れてしまったとのことであるが、現在も登り窯の跡地は残っているとのこと。
また、土師野尾集落のシンボルとなっている2つの大鳥居は、八天岳のご神体の岩を守るためのものとのこと。これにまつわる天狗伝説も詳しく聞かせてもらった。
土師野尾からはゆっくりとした峠を上り、8:10に山口の集落に到着した。ここは一面のジャガイモ畑。畑にはマルチシートが敷いてあり、畑ごとに収穫時期をずらすためか、成長の具合の違うジャガイモの葉がシートから顔を出していた。
山口集落のジャガイモ畑は集約化が進んでおり、直線道路を挟んだ両側に、大きな区画の一面のジャガイモ畑が並んでいた。
ジャガイモ畑の一面に広がった山口、牧野集落を過ぎてから、広い道路から狭い農道に右折、南下して橘湾の見える丘に向かう。右手にはジャガイモ畑の一端に建てられた巨大なJAジャガイモ選果場が周囲を圧倒している。
ジャガイモ選果場の先は、海沿いの早見の町に下っていく。橘湾が眼下に広がっていき、早見集落を通過する海沿いの道に出て、有喜(うき)漁港には9:57に到着した。
漁港では遊漁船のおじさんとしばらく話す。連休だがいまは釣れる魚があまりいない時期で、お客さんがいなくて暇だとのこと。もうすぐ産卵を控えた鯛がつれ始めるとのこと。
有喜の町で朝食を食べようとGoogle Mapで見つけておいた料理屋を探すが、2軒とも建物自体存在しなかった。仕方なく、200mほど山手に進み、国道251号線沿いのセブンイレブンでコーヒーブレイクとした。セブンイレブンの駐車場内に揚げたてかまぼこの店があったので3品購入して、断りを入れてからイートインで食べさせてもらった。揚げたては美味しい。お腹もくちくなった。ゆっくりしたかったが、コンビニは人の出入りが激しく、ゆっくりはできない。イートインの電源コンセントはテープで封じられている。15分ほど滞在し、10:30に行動を再開した。
有喜から松重の町を通過し、丘の上から雲仙岳を眺める。ここが次の行程の山場になるが、海抜0mから1000mを超える山に至る縦走路には、山を越えた雲仙の元湯までは補給はなさそう。重い荷物になりそうだ。
松重までは九州自然歩道の標識を見ながら歩いたが、地図に記載のあるここからから先の九州自然歩道の登り口はない。何度探してもない。無理をするとひどい藪漕ぎになるのが目に見えていたのでここは諦め、しばらく交通量の多い国道251号線を歩き、並行する旧道に移動することとした。しばらく静かな旧道を歩いていたが、その後旧道がなくなり、再び国道を歩くが、この道路は歩道がなく、路側帯もほとんどなく、それでいて交通量が多く、道が狭く、危ない。
500mほど国道を我慢して歩いた後、唐比(からこ)湿原に向かう静かな下り坂に入る。ここは交通量がほとんどない。スイッチバックの下り坂の先には湿原が広がっている。
12:15に湿原まで下りてみると、このあたりは牧草地になっており、馬が放牧されている。家族連れが飼育舎のあたりを見学している。周囲が数キロほどもありそうな大きな放牧場で、こころなしか馬が幸せそうに見える。さらに進むと湿原を管理するネイチャーセンターがあるが、営業はしていないよう。
地図上ではネイチャーセンターのすぐ先に、唐比温泉があるよう。もし営業していたらぜひ浸かってみたいと寄り道してみたが、ここは見事なまでの廃墟だった。そのかわりに、この海岸からの雲仙岳の眺めは素晴らしかった。
海岸沿いに500mほど進んだところにあじ彩という店があったので、ランチとした。地元の方が使う海鮮割烹という感じの佇まい。予約なしで入ることができ、海の見える部屋に通してもらった。おすすめのあじ彩ランチには質・量ともに満足し、14:10までゆっくりとさせてもらった。
ここから先は千々石(ちぢわ)の町まで海のすぐ横の、右手からは橘湾に寄せる波しぶきを感じるほどの海沿いのコンクリート舗装の道路が5kmほど続く。正面には雲仙普賢岳が頭を雲に隠して聳え立つ。左には100mほどの絶壁。波の音を聞きながら、アブラナ科のハマダイコンの花に囲まれた最高に気持ちの良い道を、1時間ほどかけて歩くことができた。このコースは死ぬまでに歩きたい道の候補にする予定。
海岸の石は、雲仙に近づくにつれて、丸みを帯びたものから、黒くゴツゴツした石に変わってきた。それにつれて、波の音も激しい音に変わってきたような気がする。
千々石の町に入ると、海岸沿いには防風林がきれいに整備されていた。この海岸は西に面しているので、とくに冬は強い風波に曝されるからだろう。しかし、この防風林の整備状況がすばらしくきれいで、とても絵になる。
15:30に千々石港に至るまで、橘湾の美しい海と雲仙の山並みを楽しみ、千々石の街並みを散策してから、長崎行の急行バスに乗って帰途についた。
2020年3月22日 九州自然歩道 27日目 長崎県諫早市碁盤の辻~雲仙市千々石町 曇り 気温18/10℃ 距離25.8km 行動時間9:56 37215歩
復路交通:長崎県営バス雲仙特急 千々石小学校前 16:48-長崎駅前 17:51/JR長崎本線 かもめ38号 18:18-博多20:14/福岡市営地下鉄 20:27-西新 20:40