2021年最初の九州自然歩道トレッキングは鹿児島県の薩摩半島の山川からフェリーで大隅半島に渡るところから始まる。福岡から山川までの公共交通機関による移動はなかなかの難所となるので、山川に前泊してからのスタートとなった。1月9日にスタートする予定だったが、1月10日のスタートとなってしまった顛末は、前回の九州自然歩道73日目番外編をご覧頂きたい。
山川の宿で5:00に起床した。この宿はエアコンの稼働2時間ごとに100円玉を投入するシステムのため、明け方はテントよりも寒くて目が覚めた。これは苦情ではない。きっぱりとリーズナブルなシステムなのだ。100円玉を投入してしばらくするとエアコンの送風口から暖気が流れてくる。部屋が暖まったのを確認してから布団を抜け出す。準備を整えて、電気ポットで沸かしたお湯をサーモスに詰めて7:00に宿を出た。
今日は東の空が明るく、暖かい。現在の外気温は2℃。国道269号線の覆道を通り、山川港までの2kmの道のりをゆっくりと進む。山川港には根占行きのフェリーが係留されているのが見える。
7:20に山川港に到着した。フェリーの煙突から煙が出ていて、まずはホッとする。乗船券発売所に行ってみると、本日は運行中の看板が出ていた。よかった。片道500円の乗船券を購入して、7:35に搭乗した。
自動車以外の乗船は自分だけのよう。私が乗り込むと、続いて車が数台フェリーの中に進んできた。2階の船室に入ったが、先客は誰もいなかった。
8:00をわずかに過ぎて、フェリーは汽笛を鳴らして動き始めた。船室を出ると山川港の灯台が見える。開聞岳もしだいに遠ざかってきた。山川港から対岸の根占港までは直線距離で12kmほど。中間地点あたりでは噴煙を上げる桜島が見えてきた。そして、正面には佐多岬から折り返して登る予定の辻岳と野首嶽が見えてきた。標高900mにも満たないような山なのだが、海からそのまま立ち上がっていることから、急峻で手強そうに見える。頂上近くには雪があるのか、うっすらと白く見える。
フェリーは8:50に根占港に到着した。また、最初にフェリーから降ろしてもらい、続いて車がその横を通り過ぎる。正面には佐多岬まで40kmの看板が見えた。この時間から日没までに40km歩くのはきついなと思いながら行動を開始した。
港から、雄川にかかる根占橋を渡り、まずはそこにあったローソンでコーヒーとパンの朝食を摂った。そこからは雄川に沿って国道269号線を進んで根占の市街地を抜け、根占川南の交差点を国道269号線の標示に従って右折する。正面には辻岳が見えてきた。
10:00頃には辻岳への登山口を通過し、根占中学校の横を通り過ぎて、大内山峠を越えた。辻岳の前峰に設置された西原パラグライダーテイクオフグラウンドはここから左折との標示がある。
正面には海が見えてきた。大浜海水浴場と表示がある。対岸には開聞岳が見える。ここからは海岸線に沿って進む。波は思ったよりも荒い。10:40には道の駅を通過した。道路横のビーチは美しい。夏には多くの人を集めそうだ。
道の駅の先には覆道が現れ、ここから先は砂浜はなくなる。海岸線には大きな岩が転がり、白い波が打ち寄せている。波の音を聞きながら国道269号線を先に進む。道路脇に茶褐色の大きな花がぶら下がっている。そのうえを眺めるとバナナが実っている。これは食用だろうか?
11:00頃に道路脇に芝生の広場が現れた。台場公園との看板が出ている。幕末の薩英戦争の頃に築かれた砲台の跡との解説がある。ここは芝生のグラウンドとトイレ、自販機もありキャンプの適地。近くには食堂もあり、理想的。ここで、サーモスのお湯でコーヒーを淹れて小休止した。
さらに20分ほど進むと立神集落に到着。ここにも居心地のよさそうな立神公園がある。バーベキュー用の施設などもあるが、テント設置不可と明示してある。残念。この公園の近くにも食堂があり、野営にはもってこいの場所なのだが。
次いで、11:53に笠集落、12:24に下園集落を通過。根占から269号線を南下する道中には、だいたい2~3kmごとに集落があるが、いずれの集落にもたいてい自販機があるので、水分補給には事欠かない。また、立神から南の集落の背後には野首嶽が聳えていて、とても美しい。12:50に通過した大川集落から先は、山上に風車が見え隠れする。
下園集落から先は道路と海の距離が近くなる。山がすぐに海に落ち込んだような地形になり、そんなところでは覆道が現れる。覆道には歩道はないので、ときどき通過する自動車はたいてい大きく避けてくれる。
そんな覆道と覆道の間の集落の片之坂の集落で素晴らしいものを見つけた。この集落の外れには出口川という小さな川が流れており、出口橋という小さな橋が架かっているのだが、何の気なしに橋名板(きょうめいばん)を見てうれしくなった。写真を見て頂きたい。昨今は個人情報のことが厳しく問われる可能性があるので名前の部分にはモザイクをかけさせてもらうが、出口橋の橋名板の銘には近隣の小学生の習字が使われているのだ。
出口橋が完成したのは平成12年11月。このとき小学校6年生だったM君とH君は2021年の現在は33歳ぐらいになっているだろう。残念ながら、この地区の衰退を見ると、橋名板を書いた小学生は故郷の外に出て行ってしまったかもしれない。でもきっと、年に1回ぐらいは故郷に帰ってくるだろう。先生と一緒に何度も習字をして完成させた橋名板の残るこの橋があるかぎりは。そして、いつか故郷のために何かをしようと思い続けるのではないか。
これまでこういった銘板には、地方の首長の名や、その他の、スコップを握ったこともないような名士の名が刻まれたものばかり見て辟易してきた。でも、小学生の名前が刻まれているのを見たときには、南大隅町もなかなかやるもんだと応援したくなった。
ここから先も覆道とその間から見える白波の立つ海岸が続く。海の見える道端にストレリチア(極楽鳥花)が咲いていた。活け花ではときどき花材として使うが、けっこう高価である。自生していたのだったらすごいなと思いながら通り過ぎる。
13:27に佐多町の中心地の伊座敷に到る全長2kmを越える伊座敷トンネルの入口に到着した。九州自然歩道はこのトンネルは通過せずに、旧道の方を進む。旧道も2km以上続く覆道。歩くにはトンネルよりもこちらの方が断然楽しい。
30分ほど覆道の連続する区間を歩いて伊座敷の港が眼下に見えてきた。ここには海鮮丼で有名な店があり、14:30の閉店時間に間に合うように最後は少し走って伊座敷の町に到着した。しかししかし、目指す店について玄関を見ると、本日定休日の札がぶら下がっている。残念。やむなく本土最南端のAコープでお弁当を購入して昼食とした。
昼食を終えて、14:50に行動を再開した。九州自然歩道のルートに従って、伊座敷港の外れから岬の先端の小山に登り、しばらく未舗装の山道を歩いた。着いた先は佐多旧薬園。島津藩の設置した薬園とのことで、いまでも龍眼(りゅうがん)、レイシ(ライチ)などが植えられている。
ここからは国道を外れ、海沿いの寂しい山道に入る。すぐに人家は途絶え、動物の鳴き声しか聞こえない。山が深くなり、だんだん勾配がきつくなる。小高い山の頂上に着いたその時、目の前に巨大な門が現れた。涅槃門と書いてある。何の前触れもなく突然現れた異形の門には驚いた。奥の方まで行けば、なにやら宗教関連の施設があるようで興味津々だったが、すでに16:30をまわっているので先を急ぐ。今日は15kg近い荷物を担いで25km近く歩いている。17:17の日没までには野営場所を見つけたい。
涅槃門から4kmほど歩いて、17:30に再び国道269号線に復帰した。道路脇は南大隅町役場の方々の手になる花壇で彩られている。辺りがずいぶん暗くなった17:47に島泊集落への分岐に到り、道路脇に平坦地を見つけた。道路から近く、自動車の音やライトが気になりそうだが、人気のまったくないところはまさに動物天国。道路から遠く離れてテントを張るのは少し心配なほど。今日もイノシシが出没している。周囲からは正体不明の動物の鳴き声が盛んに聞こえる。足もパンパンになったので、ここらあたりでザックを下ろすことにした。
2021年1月10日 九州自然歩道 73日目 鹿児島県指宿市山川~肝属郡南大隅町根占港~南大隅町島泊 晴れ 気温7/2℃ 行動時間8:55 距離29.8km 49728歩
往路交通:西新14:58福岡市営地下鉄-博多15:12/15:24九州新幹線-鹿児島中央17:00/17:12指宿枕崎線-指宿18:23/18:35-山川18:41 山川前前泊・前泊 山川港8:00-根占港8:50