九州自然歩道を週末に歩き倒す

目標は九州自然歩道の総延長2932km踏破。

九州自然歩道 90日目 春雨のしくしく降るに霞丘山の桜はいかにかあるらむ 宮崎県西諸県郡高原町高原駅~高原町霞神社 2021年3月20日

 今回の九州自然歩道トレッキングは宮崎県高原町からの再開。福岡から宮崎までの交通はなかなかたいへん。土曜日の本日、公共交通機関利用の現地到着ほぼ最速の方法で向かったが、トレッキング再開地点の高原駅到着予定時刻は昼をずいぶんと過ぎる時間。まあ、そこまでの過程も無駄なものではなく、そこそこ楽しいものではあるが。

 朝は6:30に起床して、自宅を7:30に出発した。福岡市営地下鉄に乗り、博多駅に8:16に到着した。博多駅では、土日JR乗り放題のみんなの九州きっぷを受け取り、8:30博多発の九州新幹線みずほ601号に乗車した。先週まではだいたい5:36発の始発の新幹線に乗っていたこともあり、1両貸し切りのような状態であったが、本日の指定席は満席に近い混雑。いつもより時間が遅いからということもあるだろうが、乗客にはコロナ明けの雰囲気も漂い始めている。

 新幹線は9:46に鹿児島中央に到着し、9:56に日豊本線特急きりしま8号に乗り換える。5両編成のきりしま8号は、設定された指定席が少ないこともあり、指定は満席で予約できなかった。ただし、始発の鹿児島中央駅では自由席に十分に空きがあり、桜島が見える右窓側席を確保して、10:31に隼人(はやと)に到着した。

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鹿児島中央駅で宮崎行の特急きりしまに乗り換え

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隼人駅に到着

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隼人から肥薩線に乗り換え この区間は1987年に乗車したはずだが憶えていない

 本来ならば隼人で下車せずに都城まで行けば、目的地の高原(たかはる)まで20分ほど早く着く。下車した理由は肥薩線に乗りたかったから。肥薩線は、熊本県の八代から人吉、鹿児島県の吉松、隼人を南北につなぐ路線で、とくに八代から人吉までの球磨川沿いの景観、人吉から吉松までの山間のループ線スイッチバックが有名である。残念ながら、2020年7月4日の豪雨の影響で八代-吉松間は不通となっている。今回は営業している部分だけでも乗っておこうと思い、10:35に隼人から肥薩線に乗り換えて、現在の終点の吉松には11:36に到着した。

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渓谷を走る肥薩線はほとんど無人駅だが、車窓風景は良い

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今日は桜が満開

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かつての交通の要衝である吉松駅の駅舎はなかなか立派だが実質無人

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肥薩線の運行本数は少なく、ついでに乗るのは難しい

 吉松からは吉都(きっと)線に乗って高原まで行くのだが、次の列車まで1時間半ほどあるため近くで昼食をとることにした。歩いて行ける距離に選択肢はあまりない。1kmほど離れたところにラーメン店がある。Google Mapを頼りに雨の中を歩いてたどり着いたが、ここが大正解。軟骨ラーメンとアーモンドラーメンが主なメニューで、珍しいアーモンドか、主力と思われる軟骨のどちらにしようか迷っていたら、親切にも最近人気のアーモンドラーメンを頼めば軟骨のトッピングをサービスしてくれるという。両方の味を試すことができてラッキーだった。自分の推しは軟骨。滋味を感じるコクのあるスープと、トロトロに煮込んだ軟骨の深みのある味がよくマッチしており、美味しかった。

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吉松駅から15分ほど歩いたところにあるラーメン店あら木

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新作のアーモンドラーメン

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アーモンドか軟骨か迷いに迷っていたら、トロトロに煮込んだ軟骨のトッピングをサービスしてくれた

 現在の吉松駅は肥薩線吉都線の分岐点であるが、かつて両線は鹿児島本線日豊本線という九州の大動脈の路線であったため、交通の要衝であった。いまでも駅舎は立派に整備されている。また、当時使われていたであろう蒸気機関車が駅の横に展示されている。ラーメン店を出てからは駅の周辺をグルリと回って13時前に吉松駅に戻ったが、すでに都城行の吉都線の車両が入線していた。

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吉松駅で保存展示されていた蒸気機関車

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運転席に入ることもできる

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都城行の吉都線の車両がすでに入線していた

 13:12に吉松を出発した車両は、14:02に高原に到着した。雨は強く降っている。ザックにはレインカバーをつけ、上下の雨具、ゲーターを装着して、14:16に行動を開始した。前回到達した九州自然歩道への復帰ポイントまでは4km弱。そこまでは高原の市街地を進む。途中から国道221号線に入るが、その直前の交差点にセブンイレブンがあったため、立ち寄って夕食の食材を購入した。

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高原に到着

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高原駅で雨具を完全装備 駅舎は立派だが、ここも無人

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高原駅から雨の市街地を歩いて高原町北部の九州自然歩道に向かう

 15:01に国道221号線上の九州自然歩道復帰点と目していた地点から右折して山道に入る。地図とスマホGPSで確認したが、ここで正解のはず。ただし九州自然歩道の標識はなく、地図の上の道も途中で途切れている。GPSで位置がずれていないことを確認しながら進むが、途中で道は圃場に変わり、その先は竹の茂った崖。どうやっても先に進むことができない状態となっていた。あたりを探してみたが、九州自然歩道の手がかりは見つからない。先行者のブログに出ていた風景を思い出すが、手作りの標識が立てられていたという10年ほども前の当時とは異なり、杉の植林が切り開かれて太陽光発電施設になったり、大きく様変わりしている。しばらく周辺の探索をしたが、なんの手がかりも見つからない。諦めて、国道221号線を北に迂回して、この先で合流を目指すことにした。

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国道221号線に入って北上

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太陽光発電施設の横のこの道が九州自然歩道だとGPSが示す

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圃場で道はなくなる

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この先は崖

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あたりを探すが道も標識も見当たらない

 15:28に国道221号線を北に進みはじめ、高原町から小林市に入った。国道が大きく右に曲がったところから500mほど進み、狭い農道に向かって右折して東向きに進む。右手の牧草地の向こうには辻の堂川が見えてきた。九州自然歩道は川沿いに進んでいるはずであるが、そこまでの道はなく、川には橋もかかっていない。農道は県道414号線にぶつかり、ここからは県道を進む。しばらく進み、九州自然歩道と県道414号線が交差しているはずの地点に着いた。標識はないが、地図上ではここで九州自然歩道に復帰できたはず。

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国道221号線を北に迂回する

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高原町から小林市に入る

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農道を進むと右手に辻の堂川が見えてきた

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前方の県道414号線を右(東)に進む

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県道には歩道があったり、なくなったり

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辻の堂川に沿った道が九州自然歩道ではないかと思われる

 九州自然歩道は辻の堂川を渡り、左折して山中の道に進むようになっているが、ここでも左折地点に標識がなく道を間違えた。一つ先の道に入ってしまったようで、しばらく歩いていたら県道414号線に戻ってきてしまった。なるべく九州自然歩道の地図に沿うように歩こうとするが、標識がなく何度か間違える。地図を確認したいが、雨が強く、透明ケースの中の地図を取り出して次のページを開くことさえできない。雨具のポケットからスマホを出してGPSで現在地を確認したいが、雨に濡れたスマホはなかなか動作しない。道路の両側は牧草地で、近くに屋根になるようなところはない。思い切ってケースから地図を出してひっくり返して戻したが、大粒の雨に濡れた地図は一瞬でグシャグシャになってしまった。

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辻の堂川を渡って左折なのだが、ここを間違えた

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雨が降るが、県道沿いには屋根のあるところがなかなかない

 雨の中を心細く進んでいると、16:30に朱塗りの鳥居が道路沿いに見えてきた。霞神社の参道の入口だ。ここからは700段の階段が整備されている。山頂近くの参道でようやく本日始めての九州自然歩道の標識を見ることができた。16:47に霞神社に到着。無事にお詣りを済ませた。

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霞神社の参道入口に到着

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700段の階段が頂上付近まで続く

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ようやく標識を見つけて九州自然歩道に復帰

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落ち着いたたたずまいの霞神社の社殿

 霞神社は標高300mほどの霞ヶ丘の上に立つ眺望のよいはずのところ。東にひらけた展望所まで行ってみたが、本日は残念ながら濃い霞の中、というかひどい雨の中。ときおり雲が切れたところに家並みが見えるが、眺望を楽しめるほどではない。本殿近くの参詣者休憩所の中でしばらく雨宿りしたが、雨はますます強くなるばかり。

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残念ながら雨で眺望は得られず

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ときおり雲間に町が見える

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本来は素晴らしく眺めの良い所

 宮司さんが社殿の電気を消して、終業準備を始めたため、意を決して参道を下ることにした。門前の仲見世はすでにすべて閉まっている。満開の桜はこの雨ですでに散り始めている。17:20に霞神社参道下の駐車場に着いた。さいわい、駐車場の脇の屋根の下にテーブルとベンチが置いてある。荷物を下ろしてしばし休憩。しかし非情にも雨は強くなるばかりで、雷鳴までとどろき始めた。

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しばらく休憩所で雨宿り

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暗くなる前に南の参道を下りはじめた

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仲見世はすべて閉じている

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参道沿いの桜は満開

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南参道の入口に到着

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駐車場の休憩スペースに屋根があった

 今日はこの雨の中、これ以上進むことは困難だ。屋根のないところにテントを張ったら悲惨な状況になることは目に見えている。本日はここでビバークさせてもらうこととし、テント設営を開始。18:16に行動を終えることとした。

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屋根の下にテントを張った

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上から下までずぶ濡れの体を温める夕食

 上下ともにGore-Texのレインウェア、靴はGore-Tex、靴の上にもGore-Texのゲーター。それにもかかわらず頭のてっぺんから靴下の先っぽまでぐっしょり濡れてしまった。どのぐらい濡れてしまったかは、現在、レインウェアのポケットに入れておいた財布を机の上で養生しているので、これを見て頂いたら想像できると思う。防水性があるものの透湿性の高いレインウェアは、水を通すことを思い知った。きっぷが水に濡れると黒変することは初めて知った。

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ゴアテックスのレインウェアのポケットに入れっぱなしだったのにこの有り様

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切符は黒変し、改札のたびに止められた

 テントの中で雨の音を聞きながら、大学1年生の時の万葉集の講義で、春の雨の歌があったなと思い出した。憶えていたわけではないが、調べたらその歌がすぐに見つかった。

 春雨のしくしく降るに高円の山の桜はいかにかあるらむ 河辺朝臣東人(かはべのあそみあづまひと)

春雨がひどく降っているが、奈良の高円山の桜はいまごろどうなっているかなあ、と詠んだ歌である。先輩から譲り受けた万葉集のテキストにこの歌があったのを憶えている。

 明日まで霞ヶ丘の満開の桜がもつだろうかと、ときおり周囲を震わせる雷鳴を聞きながら考えた。40年近く前に過ごした大学の階段教室の艶やかに光る木の机が頭の中に蘇った。

 

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2021年3月20日 九州自然歩道 90日目 宮崎県西諸県郡高原町高原駅高原町霞神社 雨 16/15℃ 行動時間3:04 10.9km 23316歩 

往路交通 西新8:02-博多8:16/8:30みずほ601号-鹿児島中央9:46/9:59きりしま8号-隼人10:31/10:35肥薩線-11:36吉松/13:12吉都線-高原14:05