今回の九州自然歩道トレッキングは宮崎県西都市からの再開。交通を考えると前泊が必要だが、そうそう金曜日に休むわけにはいかないので、今回は金曜夜の最終便の飛行機で福岡空港から宮崎空港に行くことにした。たかだかトレッキングに贅沢なと思われるかもしれないが、早割料金ならばJRの正規料金よりも安い。
福岡空港から宮崎空港までの飛行時間はたったの35分だった。九州山地の上を飛ぶ飛行機の上から今回のトレッキングルートが見えないかと目を凝らしてみたが、すでに日没を過ぎ、残念ながらコースは判別できなかった。19:10の到着予定時刻だったが、19:03に着陸したため、宮崎空港駅19:18の電車に楽々乗ることができた。夕食には郷土料理の冷汁、チキン南蛮、地鶏の三点盛りを頂き、早めにベッドに入った。
土曜日の当日は、宮崎市の中心街からバスに乗り、8:35に西都バスセンターに到着。8:40に行動を開始したが、久しぶりの青空。気持ちがいい。週末に晴れるのは4週間ぶりだ。
まずは川沿いの道を北上し、8:54に都萬(つま)神社に到着して参拝。境内には日本酒の発祥の地との標識が掲げられている。神社の南からは豊富な水量の用水が流れている。
神社からは、記紀(きき)の道と名付けられた、西都市内の歴史的なランドマークを繋いで古墳群に至るように設定された遊歩道を歩く。まずは9:20に稚児ヶ池に到着。ここは現在改修中のようで、重機が入れられており、水は抜かれている。
記紀の道は標識が各所に設置してある整備状態の良好な遊歩道。ただし、御舟塚、日向国府跡、八尋殿、無戸室、といった興味をそそるランドマーク名が設定してあるが、どれどれと覗いてみると、かつてそこにあったとされるただの原っぱとか、ポツンと石が一つだけとか、こっちでよいのかうろうろしながら駐車車両の横をすり抜けていったら人家の庭、みたいな状態なので、そんなに期待せずに歩いた方が無難である。
記紀の道の見所の一つが石貫(いしぬき)神社。朱色に塗られた社殿が特徴的。神社の由来を見てみると、息子が結婚の条件として一夜で建造した階段を、結婚が気にくわない父親が石を一つ抜き取って破談にしたということで石貫(石抜き)とか。神様の世界もかなり世俗的な行動をとる。
西都の市街地から、9:39に石貫階段を登って古墳の並ぶ台地の上に向かう。階段の両側にはスギがすっくと伸びており、神々しい雰囲気が醸し出されている。登りながら観察したが、現在は石が抜かれたところはないようだ。
台地の上の大山祇(おおやまづみ)古墳には9:52に到着した。青空に古墳の緑が映える。しかし、古墳が築造された当初は、イネ科の植物に覆われたこんな緑の状態ではなく、大きな楠も生えていなくて、副葬品がずらりと並べてあったりして、今とは全然違う光景だったのではないかなとか考えながら、古墳群の中を北に向かって歩いた。先週から西都原古墳群に誰が埋葬されているのか知られていることがないか調べてみたが、誰なのか、どの一族なのか、さっぱり情報がない。わずか1500年ほど前のことなのに、不思議だ。
古墳群の北の外れまで歩き、10:04に古墳群のある台地から東に向かって下りはじめた。歩道のある舗装路を歩き、10:12に穂北で左折して農道を進んだ後、ふたたび2車線の舗装路に出る。
地図では、しばらく進んだ島内地区で舗装路から右折して農道を北に進むようになっているのだが、該当するところには農道がなくなっていた。こんなことはよくあることなので慌てるほどではない。300mほど先に別の北向きの農道があったため、迂回して10:30に椿原集落に着くことができた。
ここからは人家の間を抜けるように進み、10:42に穂北橋のたもとに出て、堤防に沿って一ツ瀬川を上流に向かって進んだ。しばらくは堤防の舗装路を快適に歩く。向かい側の川岸には公園が見える。
500mほど川沿いの堤防の上を歩いたところで、堤防下の川べりにも歩道が設置してあることに気がついた。入口には倒木注意の看板があったが、せっかくなのでこちらを進んだら、九州自然歩道の標識が設置してあった。しばらくは川を見ながら歩道を進んだ。落ち葉が積もって、人が歩いた痕跡はほとんどなかったが、倒木もそれほどひどくはなく、十分に歩くことのできる状態だった。
11:14に杉安橋に到着し、一ツ瀬川を越えて杉安集落に入る。橋のたもとには旅館があったが、残念ながら営業はしていないようだった。
杉安集落からは2車線の道路をしばらく進み、11:31に古城林道の標識から左折して林道に進む。この林道は整備状態の良好な舗装路。両側を木々に囲まれ、快適に上り道を進む。
11:44に九州自然歩道の地図に従って林道を右折する。舗装路から砂利道に変わり、少し嫌な予感がしたが、若干の倒木があるだけで、11:54には現王屋敷の集落に到着した。
現王屋敷とはすごい名前の集落だが、正式な読み方は分からない。うつつおうだろうか、それともストレートにげんおうか?王様の宮殿とかがあるわけではなく、牧歌的な風景が広がるのみ。家は数軒建っているが、人が住んでいそうな気配はない。
コンクリート舗装路を進み、竹尾集落で橋を渡り、山中へと進む舗装路を登り始める。坂の途中にお寺があり、木喰上人の解説が書かれていたので覗いてみた。せっかくなのでお参りしようと思って財布を出したが小銭がない。そうこうすると、社殿の隣の家の窓が開いて、女性から何かご用かと声をかけられた。大きなザックを担いで、サングラスをかけた人間が不審に映ったようだ。早々に退散した。
小さな山を越え、12:20に県道22号線の2車線の道路に出て、左折してしばらく進んだ。12:37に平原(ひらばる)集落で、営業していない商店の前の自販機で飲料水を購入して小休止。行動食のビーナッツをコーラで流し込んで昼食とした。
13:00に行動再開。ふたたび県道22号線を歩き始める。交通量はそれほど多くないが、歩道のない部分が多く、大型車がときおり隣を通過する。途中でガードレールがひどく損傷したところがあったが、崖崩れの跡のようだった。
峠を越えて13:34に木城(きじょう)町に入る。南九州では、「きじょう」のように訓読み+音読みの地名のパターンがときどきあるが、なかなかなじめない。
舗装路をゆっくりとカーブを描くようにして下り、13:56に川原橋で一級河川の小丸川を越える。700mほど下流に川原自然公園キャンプ場がある。この川の水の色はうっとりとするほど美しい深い緑色をしている。橋の上からしばらく眺めるが、自動車は邪魔そうに大きく避けていく。
14:00に川原集落で県道22号線から左折して山に向かう。道路は舗装路で状態は良好。坂の途中に陶然茶房なるカフェの看板が出てきた。今日はほとんど休憩を取っていないので、開いていたら休憩しようと先に進む。14:09に陶然茶房に到着。木々に囲まれたとんがり屋根のカフェ。予約のみの営業と張り紙があったが、電話をして都合が合えば開けるとも書いてあるので、その場で電話をしたら、あるもので食事も作ってくれるとのこと。奥の自宅から籠を持った女性が現れ、カフェを開けて準備してくれた。
立ち寄って正解だった。杉を建材に使用して建てられた建物で、内装も木調で凝っている。聞けば、陶芸家のご夫婦が自分たちの作品のギャラリーのために建てたものだという。現在は陶芸のギャラリーやコンサート、本格的な台湾茶を提供するカフェとして使われている。武者小路実篤の美しき村の活動に賛同して当地に移住してきたとのこと。庭には珍しい植物をいろいろ植えていたが、全部シカに食べられてしまったと笑っていた。お茶と水餃子を頂いたが、いずれも心のこもった味がする。
女性は博多育ちの方で、話が弾んだ。台湾のお茶は6煎目まで味と香りの変化を楽しむらしいのだが、5煎目を頂いたところで荷物を担ぐことにした。
カフェには2時間近く滞在してしまった。もう1時間ぐらい滞在してもよいぐらい快適だったがそうもいかない。ようやく15:54に行動を再開。景色のよい舗装路を進み、次第に高度を上げていく。
16:30に白木八重トンネルを通過。その後は、小さな集落を過ぎるが、そのたびに右左折しながら先に進む。標識が比較的丁寧に出ているので道を間違える恐れはない。
長草集落を過ぎたら本日の目標に定めていた白髭神社はもうすぐのはず。ところが道中で出てきた標識の向きは90°異なる。地図の方を信じて進み、17:42に白髭神社に到着した。
白髭神社はすこし注文の多い神社。鳥居をくぐって境内に入る前に、自分の邪な心を咎められたら嫌だなと思ったが、何事もなく参詣できたので、自分はやはり真正直な人間だったのかもしれない。
参拝の後は、白鬚集落の田園の中を進む。野焼きの煙が周囲に漂っている。野営適地を探して、九州自然歩道のコースの舗装路を山中に向かって1kmほど進んだところで、道路脇の平らな草地を見つけて18:00に行動終了とした。
夕食には赤米と煮豚をアルコールバーナーで温めて食べた。煮豚はカフェで購入し、赤米はカフェで頂いたもの。フリーズドライの味噌汁といっしょに美味しく頂いた。
辺りが暗くなった頃から、シカがしきりに鳴いている。空には星がたくさん瞬いている。明日の朝は放射冷却で冷え込みそうだ。
2021年4月10日 九州自然歩道 96日目 宮崎県西都市西都バスセンター 曇りときどき晴れ 17/10℃ 行動時間9:07 29.2km 41124歩
往路交通:
福岡空港18:25ANA4671-宮崎空港19:10/19:18-19:28宮崎(前泊)
ルートインホテル前橘通7:41-西都バスセンター8:35