久住連山の法華院温泉山荘で朝を迎えた。昨夜は台風9号が大分県を直撃した。昨年も、一昨年も、台風直撃の日にはなぜか標高1000m以上の宿泊地で一夜を過ごしている。引きがよすぎる。
昨夜は大雨に加えて風が強く、ときおり山荘が揺れていた。九州自然歩道のコース上には宿泊施設はほとんどないので、基本的にテント泊。ところが昨日は、せっかくだから久住連山をいくつか登ってみようと、生まれて初めて山小屋を予約した。小屋泊にしてよかったと心の底から思った。
5:00に起床して窓から坊ガツルを見ると、湿原のアシの一種と思われる背の高いイネ科の植物は右に左に激しく動いている。昨日まで数基設置してあったテントはすでにない。
7:00から提供される山荘の朝食よりも少し早く食堂に行ってテレビを見る。天気予報を見ると、大分県を直撃した台風9号はすでに九州を抜け、広島県に上陸している。現在の速度は45km/hと早く、あと2時間ぐらいで暴風域から外れそうだ。朝食を終えた後はしばらく部屋でゆっくりして、雨が弱くなってからスタートしようと考えた。
山小屋のチェックアウトの時間は9:00。起床時よりも風は弱くなってきているが、まだ大雨が降っている。しかたがない。雨具を装着して9:10に行動を開始した。
せっかくなので坊ガツルの湿原に本格的に水が溜まっているところを見ようと回り道をした。木道を歩いて湿原の中を進む。さすが湿原だけあって、すでにくるぶしぐらいの水たまりが各所にできている。ススキやカヤのようなイネ科の植物がほとんどで、風をうけて狂ったように波打って動いている。
一面のカヤの中で写真を撮った後、下山路の方に進む。湿原の水を集める水路は膝下ぐらいの川と化していた。目を凝らして川の中を見ると、飛び石を伝って向こう側に渡る設定のようだが、飛び石は完全に水の中に沈下していた。水中の飛び石を踏み外したらさらに危ない。少し下流の浅いところを探したが、膝下まで水がありそうだ。流されないように気をつけて川の中を歩いたが、流れはそれほど強くなく、9:33に無事に対岸の登山口の分岐点にたどり着いた。ただし、開始20分で靴下がずぶ濡れになり、戦意を喪失してしまった。
その後は長者原への登山道を進んだ。整備状況は非常に良い。晴れていたら楽しい道だろう。石畳や木道がしっかり整備されている。
10:10に長者原までの峠となる雨が池に到着した。雨が池の水量は多く、霧に霞んだ池はきれいだった。
ここから先の登山道は下りとなる。整備状況は悪くはないが、ところどころ土石流で流れてしまった箇所がある。そんなところにはローブが渡してあるため、気を付ければ問題なく進むことができる。30分ほどで登山口に設置してある登山届のポストに到着した。
ここからは一面のカヤに覆われた湿原のタデ原の中を進む木道を通って、11:35に長者原ビジターセンターに到着した。
ビジターセンターで15分ほど小休止した後、センターの前の県道11号線に出る。ここのバス停でバスの時間を確認。1日3本のコミュニティバスがこの先から来るはず。県道11号線のこのあたりの区間はやまなみハイウェイと呼ばれ、雄大な景色が楽しめるはずであるが、残念ながら今日は雲の中。右に左にいくつかのホテルを見ながら進む。天気が悪いにも関わらず、人気のあるやまなみハイウェイは交通量が多いため、自動車には注意がいる。
牧ノ戸温泉を通過したあたりで九州自然歩道の標識があらわれ、県道と並行した自然歩道に誘導する。12:20から県道を離れて進んでみると、しっかり整備された人道の舗装路が続く。ときおり木道が現れたり、樹木に名票が架けられていたりして、整備に力を入れているのが分かる。雨の中だったのが残念。
自然歩道を楽しみながら歩くと、12:50に牧ノ戸峠の駐車場にたどりついた。駐車場にここを始発とするコミュニティバスが停車しているのを確認し、バスの時刻を撮影して行動を終えることとした。
雨が激しく降るため、レストハウスに入って休んでいた。バスの時間までは30分近くある。カウンターで注文したブルーベリージュースが濃厚で美味しい。あと10分でバスの時間だなと思い、ドアの外まで出たところで、バスが方向転換をはじめていた。そろそろ乗客を迎えるために方向を変えるのかなと思っていたら、そのまま勢いをつけてやまなみハイウェイを走って霧の中に消えていってしまった。
時刻を確認したが、やはり10分前。レストハウスに入って、カウンターの店主にバスが時間前に出発した旨伝えるが、どうにもならない。呆然と立ち尽くした。次の最終バスまでは4時間近くある。
やむなくレストハウスの喫茶室でレインウェアを脱いで、本を読み始めた。するとヒゲの男性が近づいてきて、今から九重インターを経由して別府まで行くから乗らないかと言ってくれる。カウンターで店主に乗り遅れたことを言っていたのを聞いていたようだ。
駐車場で待つ自動車の助手席に乗せてもらった。家族3人で九州に旅行に来て、レンタカーで移動中だったとのこと。阿蘇を楽しみにしていたが、あいにくの天気で景色は見えなかったという。優しい家族だった。
県道40号線を九重インターチェンジに向かう途中で通行止めとなっていた。引き返す途中で、乗る予定だったバスが正面から進んできた。急いでUターンしてもらい、九重夢大吊橋のバス停で停車したバスに乗ることができた。名前を聞くことも忘れて、頭を下げただけで別れてしまった。
コミュニティバスも県道40号線を進んで九重インターチェンジまで行くルートをとる予定だったが、通行止めのため迂回路を何度も右左折を繰り返して猛スピードで進む。迂回路を通っているために少し遅れているようだ。前方に座っている、豊後中村駅でJRに乗り換える予定だという女性がなにやら運転手さんに言ったところで、バスはさらにスピードを上げた。
豊後中村駅には4分遅れで到着した。下車する女性が小銭がないと言いだし、なかなか発車しない。ふとバスの窓の外を見ると、先ほどまで車に乗せてくれたヒゲの男性が立っている。窓を開けると、車の中にこれを落としていたと、ジップロックに入れたトイレットペーパーを渡してくれた。私が自動車から降りた後で落とし物に気がついて、猛スピードのバスを追いかけてくれたという。本当にどこまでもいい人だった。今度は名前を聞いておいた。ついでに、こういうときのために持っている、「お返しにできることはやりますカード」を1枚進呈しておいた。今度は手を振って笑って別れることができた。
コミュニティバスはJRの駅から急坂を上って九重インターチェンジに着き、福岡行きの高速バスを待っていた。またもや先ほどのヒゲの男性の車がやってきて、お気を付けてと手を振って走り去っていった。どこまでもいい人だった。いい人偏差値73ぐらいのいい人である。雲の合間から日が差し込んできた。大雨に降られたり、膝下までずぶ濡れになったり、バスに乗り遅れたりしたが、こんな一日の終わり方もいいかなと思える日だった。
九州自然歩道113日目 2021年8月9日 大分県竹田市久住町法華院温泉山荘~玖珠郡九重町牧ノ戸峠 大雨 32/23℃ 行動距離9.8km 行動時間4:03 18742歩
復路: 牧ノ戸峠13:15九重縦断コミュニティバス(乗り遅れ)-九重インターチェンジ14:16(+8分遅れ)/15:20高速バスゆふいん号-博多BT17:07