九州自然歩道を週末に歩き倒す

目標は九州自然歩道の総延長2932km踏破。

九州自然歩道 60日目 大口盆地には稲わらロールが似合う 鹿児島県伊佐市大口笹野久七峠~伊佐市大口里 2020年10月25日

 鹿児島県境を越えた最初の朝は6:00に目が覚めた。人吉と大口を結ぶ久七(きゅうしち)峠は、2004年に久七トンネルができたため、おそらく地域の人しか使わないのだろう。昨日から1台の車しか通行していない。道路の状態は良好なため、頗る快適である。本日の天気も晴れ。気持ちよく撤収を進め、7:06に行動を開始した。

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峠の朝

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こんな素敵な道を独り占め

 1kmほど下った道路脇に滝があった。ここで顔を洗い、歯磨きをした。修行僧のようだなと思いながら。ここまで千キロ以上歩いたが、ときには修行のようだったなと振り返る。

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滝で顔を洗う

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 2kmほど歩いたところで7:36に国道267号線と合流した。ちょうどここは久七トンネルの出口になっている。4kmにもわたるトンネルを歩くのも一興かと思ったが、このトンネルは歩道が狭い。もし通過する機会があったら、早朝の車の少ない時間にすべきかと思う。トンネルの中はものすごくうるさいからだ。

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久七トンネル 3945mある

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 国道267号線をまっすぐ伊佐市に向かって進む。だんだん日が差し込んできた。交通量はそれほど多くなく、5分に1台程度の車で、気持ちよく歩くことができる。しだいに家が見えてきて、道路脇にも鹿児島到着を迎えてくれる看板が現れてきた。

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 伊佐市の中心は大口盆地にあり、穀倉地帯として知られる。また、盆地は霧が多発するところでもある。今日も快晴の夜に放射冷却で冷やされた盆地の空気が霧となって流れ出してきた。幻想的な風景だ。もったいない。誰かにも見せてあげたい。

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 国道267号線を3kmほど進んだ木の氏(きのじ)の集落で8:23に右折して、牛尾集落への山道に入る。1.5kmほど進むと工場が現れてきた。大口電子と書いてある。半導体関連の工場のようだ。もともとこの地域には金山があったようで、それを標した石碑も残されていた。そういえば大口盆地の反対側には高品位の金が産出することで有名な菱刈金山があったなと思い出す。

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牛尾集落に向かって右折する

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大口電子の工場

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大口金山の石碑

 牛尾の集落を進むと、配給所前というバス停があった。戦時中の名残なのだろうか。四角い無愛想な建物が今でも残っている。この後、集落の中を何度か右折するが、その都度、曲がり角ごとにていねいに標識が設置してあり、迷うことはない。鹿児島県内に入ってから、九州自然歩道の標識がずいぶん親切になったような気がする。牛尾集落では牛舎や田園風景を楽しみながら歩を進めることができた。

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 9:35に十曽(じっそ)池に到着した。十曽池には公園やキャンプ村が併設しており、のんびり過ごせそうだ。公園の水道を使って、昨夜の夕食で使った食器を洗ってさっぱりした。

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 十曽池の公園ではコーヒーを淹れて1時間ほど小休止。ビスケットの朝食を摂って、心地よい朝の時間を過ごした。

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 10:30に行動を再開し、大口盆地の北の縁に沿って歩き始めた。途中でキャンプ場とブルーベリー農園を見つけた。

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シャロームキャンプ場

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 十曽池からは南西に伸びる道をまっすぐに進み、山野という大口盆地の北の外れの集落に着いた。ここには1988年まで水俣から栗野まで運行されていた国鉄山野線の駅の跡がある。たまたまだが、山野線には1987年の10月頃に栗野から大口まで乗車したことがある。なんとなく懐かしいような、寂しいような気持ちがした。鉄道がなくなった町は、火が消されたように元気がなくなってしまう。

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 国道268号線を横切り、十曽川にかかる大代橋を渡って大口渕辺の集落に進む。大きな圃場の向こうには黒園山が見える。田んぼの中の道を歩いていると、市長選の選挙カーが向こうからやってきて、窓を開けて「国勢調査か?」と聞かれた。まさか、今の世に太閤検地のように租税を決めるための田んぼの調査はしていないだろう。ひょっとしたら地籍調査のことをいいたかったのかもしれない。選挙カー氏は、福岡から歩いている途中というとしきりに感心してなかなか話が止まらない。まあ、不審者と思われるよりは良いことだと思いながら話しに付き合う。選挙カー氏からは、この先の鳥巣集落に、旧式発動機の収集で有名な人がいるから訪れるように勧められた。

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 それにしても淵辺の集落はのんびりしたところだ。圃場の各所に置かれた稲わらロールがよく似合う。集落には穀倉地帯によく見られる用水路が整備されている。

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 12:50に鳥巣の集落に到着した。しばらく発動機氏の家を探し、15分ほど歩いたところでようやくみつけた。ここでは30分ほど各種の発動機を見学させてもらい、大口の歴史などについて教えてもらった。昨日越えてきた久七峠は冬は降雪の多いところで、スキー場建設の計画もあったほどだという。昨夜は寒かったはずだ。

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レストアを済ませて大会に出展した発動機とのこと

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 発動機氏の家を辞した後、14:00ごろに伊佐市の中心地となる大口里に到着した。市内を見学した後、14:25に昼食のために台湾料理店に入り、ここで本日の行動終了とした。

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羽月川を渡って大口の中心地に向かう

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大口歴史民俗鉄道記念資料館

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昼食にはたっぷりの台湾料理

 その後は、16:00の南国交通バスに乗って、新水俣駅から博多に帰る予定だったが、バスの終点は新幹線の新水俣駅ではなく、その先にある肥薩おれんじ鉄道水俣駅だと知って、終点まで乗ることにした。水俣の町は初見。水俣といえば、と言ったら地元の人は気を悪くするかもしれないが、チッソを見ておきたかったからだ。ここまで来たら、ミナマタという名を世界に広めることになってしまったチッソ株式会社を見ないで帰るわけにはいかない。水俣は、やっぱり悲しく寂しい海の町だった。

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2020年10月25日 九州自然歩道 60日目 鹿児島県伊佐市大口笹野久七峠~伊佐市大口里 晴れ 気温22/3 距離24.4km 行動時間7:23 35418歩

復路交通:

南国交通バス 大口八坂神社前15:57-水俣駅前16:52/肥薩おれんじ鉄道 水俣17:48-新水俣17:53/九州新幹線つばめ338号18:04-博多19:20

九州自然歩道 59日目 人吉から峠を越えて鹿児島に 熊本県人吉市人吉橋~鹿児島県伊佐市大口笹野久七峠 2020年10月24日

 週末の今日は5時前に目を覚まし、シャワーを浴びて福岡の家を出た。西新から6:08の地下鉄に乗り、博多駅から新幹線で新八代まで行き、そこから高速バス、市内循環バスと乗り継いで、9:00に人吉市の人吉橋から九州自然歩道のトレッキングを再開した。天候は晴れ。現在の気温は20℃で、歩くのには心地よい。

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人吉市の人吉橋バス停からトレッキング再開

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橋の向こうには人吉の温泉街が見える

 人吉橋からは、球磨川の南岸の集落の中を歩く。本年7月の水害の影響だと思われるが、いまだに玄関先まで泥が堆積した家があり、痛々しい。

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まずは球磨川河畔を下流に進む

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 9:47に鹿目(かのめ)川に沿って上流に向かう道に分岐する下戸越集落に到着した。正面には鏡山が見えてきた。鹿目川は球磨川の支流だが、豪雨の影響だろうか、道路にクラックが入ったところが何か所か現れる。それ以外は快適な舗装路を鹿児島との県境に向かって高度を上げていく。

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下戸越集落から支流を遡る

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ところどころ道路が傷んでいる

 10:30ごろに道路の整備をしている軽トラックのおじさんと挨拶を交わした。道路脇に散乱している倒木を片づけてくれている。鉾立山と久七峠を経由して大口に向かうと言うと、久七峠はトンネルが開通してからほとんど車が通っていないためかなり荒れているかもとの情報をもらった。

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 10:40ごろに鹿目集落の手前から川に向かって下りていき鹿目の滝を見物。ここは柱状の石の壁からかなりの量の水が落下してくる迫力のある滝。日本の滝100選になっているだけある。しばらく見とれていたら、上着はしっとり濡れてしまっていた。

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鹿目の滝は圧巻

 道路に戻り、しばらく上流に進むと、鹿目の滝を上から眺められるポイントがあった。ここも眺めが良い。その上流には白布滝が現れる。鹿目の滝には先ほど見た雄滝の他に雌滝もあるようだが、そちらへの道は崩落しているため行けないようだった。

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鹿目の滝を上から眺める

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白布滝も美しい

 鹿目集落を通過し、12:00に小さな橋を渡って鹿目林道から分かれて左に折れ、赤仁田集落への山道の急な坂道を上りはじめた。20分ほどで赤仁田集落に到着し、最後のポツンと一軒家を通過する。ここから先は非舗装路に入る。集落はグルリと鹿除けのネットで囲まれているため、これをくぐって山道を進み始めた。

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赤仁田集落を通過

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 集落から先はしばらく人が入っていないようで、かなり荒れていた。踏み跡はほとんどなく、ところどころに残された赤いテープを頼りに先に進む。

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赤仁田から先は荒れた山道がしばらく続く

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 13:00に赤仁田集落から2kmほど進んだところで標高700mほどの稜線に到達し、そこに設置してあるベンチでおにぎりとラーメンの昼食とした。

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 30分ほどかけて昼食を摂り、行動再開。しばらくはほどほどに枝を払った痕跡のある山道を進み、14:00に鉾立林道に出た。林道をしばらく進むと、鉾立山山頂への登り口らしきところがかすかに見えたため、そこからとりつき、10分ほどで鉾立山山頂(752m)に到着した。残念ながらこの山頂は眺望はなし。

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山道から林道に出た

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 山頂からはかなり古い木道があり、下り始めて15分ほどで再び鉾立林道に出た。しばらくは快適な林道を歩き、15:21に舗装路と合流し、ほどなく田野の集落が見えてきた。

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ふたたび鉾立林道に

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 田野は熊本県と鹿児島県との境界の山間の高原で、牧草地と水田がひろがるのどかな田園。開拓された当初は獣害がひどかったため、田野観音は獣害を鎮めるための祈願に建てられたとのこと。

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田野集落

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田野観音

 15:52に田野集落の外れにある小学校の跡地に到着。学校跡地前には自販機があった。ここで喉を潤し、峠越えに備える。

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峠に向かう道

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 田野集落を出てしばらくすると、1車線だった道路は二車線になった。勾配はそれほどでもなく、スギの植林の中をのんびりと歩き、16:30に熊本県と鹿児島県との県境となる久七(きゅうしち)峠を通過した。峠の標高は732mで、山はそろそろ暗くなってきたため涼しくなってきた。

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峠が近づく

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県境に置かれた境石

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実際の久七峠は鹿児島県内に600mほど入ったところ

 分水嶺を越えてしばらく進むと、谷底に川が流れているのが見えてきた。地図を見ると元古屋の集落となる。小川に沿って芝で縁取られたきれいな池がいくつも並んでいるのが見えた。養魚場のようだ。確認したかったが立ち入り禁止の札が立てかけてあるため池の正体は確認できないままだった。

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きれいな池が並んでいる

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県境ではスギの収穫も行われていた

 17:30に鹿児島県境を越えて3kmほど進んだところで、大口方面から自転車で登ってきた人と挨拶を交わす。ちょうど大口盆地が見え始めたところで、自転車の方も夕暮れの景色を写真に撮っているところだった。

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はるか下に大口盆地が見えてきた

 18:00に道路脇にスペースを見つけて行動終了とした。野営準備をしていると、先ほどの自転車の方が降りてきて、今朝の大口市内は3℃まで下がったから気をつけてと声をかけていってくれた。

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 寒くなってきた。温かいものを食べようと、まずはお湯を沸かしてパスタを茹で始めた。

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2020年10月24日 九州自然歩道 59日目 熊本県人吉市人吉橋~鹿児島県伊佐市大口笹野久七峠 晴れ 気温22/3 距離25.2km 行動時間9:00 43957歩

九州自然歩道 58日目 ブルートレインの宿から球磨川沿いに人吉まで歩く 熊本県球磨郡多良木町ブルートレインたらぎ~人吉市人吉橋 2020年10月18日

 昨夜はブルートレインに宿泊した。最後にブルートレインに乗車したのはいつだったろうか。2000年ぐらいが最後だったかもしれない。富士か、さくらか、それとも、はやぶさか。最後に乗車したときには一人用の個室のSOLOだった記憶がある。昨夜も一人用の個室で寝た。懐かしかった。ふたたび多良木に来る機会があったら、もう一度泊まってみたい。

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懐かしい!ブルートレイン 泊まれて良かった! 設備の老朽化とメインテナンスの難しさを考えると10年後に泊まるのは困難かも

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多良木駅前の石蔵 こんな石蔵が球磨川流域では各所に見られる

 今朝は6:00に起床して、近くのコンビニでサンドイッチとコーヒーを購入して、ブルートレインの共有スペースで朝食を摂った。宿泊客のほとんどはバイクで来ており、徒歩は私のみ。管理人さん曰く、いつもは肥薩線くま川鉄道を利用した宿泊客も半数ぐらいを占めるそうだが、運休中の現在はそれは望めない。

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 ブルートレインとの別れを惜しんで、8:06にゆっくりと行動を開始した。まずは多良木駅前から、昨夕、九州自然歩道を離脱した里城(さとんじょう)に向かう。今日の天気は晴れ。人吉盆地を取り囲む1000m級の山々の中腹には雲がかかっているが、今日はシンボルの市房山が見えてきた。

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 球磨川にかかる里の城大橋を渡って、里城には8:28に到着。ここから県道33号線に入り、真っすぐ人吉に向かう。今日の球磨川はおとなしい。人吉盆地に農作物の恵みをもたらす川の顔をしている。集落の中に数百メートルほど進み、馬門観音にお参りしてから先に進んだ。

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里の城大橋

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県道33号線を歩く

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馬門観音

 しばらく県道33号線を進むと、あさぎり町に入った。少し高台を歩いているため、人吉盆地の大きさがよくわかる。平地部分の大半は黄色く染まっており、稲作に使われていることがわかる。

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 球磨川のところどころには堰が設けられており、取水口から用水が引かれている。この辺りは球磨川の堤防の上を歩くが、眺めが良くて気持ちが良い。これまで幾度となく氾濫を起こしている球磨川では堤防がよく手入れされている。堤防に囲まれた平地では、大きな区画の水田が耕作されている。そしてそんなところの農家には石蔵が設置されている。

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 市房山だけでなく、球磨川の南側にも大きな山がそびえている。大平山(1120m)や黒原山(1017m)などの山もあり、いつか人吉盆地の南の山々にも登ってみたい。

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 11:02に球磨川に架かる明廿橋の横を通過した。九州自然歩道は県道33号線を進むのだが、県道の交通量は多く、歩道がなくて危険なため、ここから県道に並行して走行する球磨川の堤防の上の道路を歩く。堤防の道路は舗装状態も良く快適。

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 球磨川に沿った道を歩き、11:30にきのえ大橋を通過し、12:00に球磨大橋を通過した。

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球磨大橋

 球磨大橋を過ぎたところから九州自然歩道球磨川から離れて錦町に向かうため、それに従って県道33号線に復帰する。12:15に県道沿いにコンビニがあったため軽食でお腹を少しだけ満たした。昼食は蕎麦を予定しているため、あまりお腹に入れたくはない。

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長安寺にお参り

 錦町に入ると道路は直線になる。このあたりは球磨川と川辺川に囲まれた地域になるので、ひょっとしたら治水が可能になった近年まで原野であったところを開拓したかとも思われる。一つ一つの圃場が大きいのでそんなふうに考えながら歩いていた。

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 13:43に川辺川にかかる柳瀬橋を越えた。この川は人吉で球磨川に合流するが、先月歩いていた五木村や五家荘を源流に持つ。なにか懐かしい匂いがする。川辺川の川岸には投網が干してあった。時期を考えると、落ち鮎でも捕っているのだろうか。投網は中学生の時に友人のものを借りて何度か投げてみたが、きれいな輪を描くように投げるのはとても難しかった。

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柳瀬橋

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川辺川を越える

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投網が干してある

 14:03に川辺川沿いの集落にある蕎麦店の田ぐちに到着した。営業は15:00までだったので間に合って良かった。おろし蕎麦の昼食としたが、蕎麦の香りが良く、とても美味しかった。帰り際に水筒に水を入れてもらったが、その水が冷たくて、素晴らしく美味しかった。

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 14:45に蕎麦店を出て行動再開。ゴルフコースに沿って歩き、15:17に九州自動車道の高架下を通過した。

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 15:30に曙橋を渡って球磨川を越え、人吉市の南岸エリアに到着した。地図を見ると、九州自然歩道はここから少しだけ山中に入り、人吉城の中を通って人吉市の市街地に行くようになっている。曙橋から人吉城に向かう山道に入ると、道は消失していた。並行する肥薩線の線路を覗いてみると、こちらはもっと荒れて、線路の上に木々が倒れ込み、線路は砂利で埋まっていた。哀れ肥薩線。いつ再開できるだろうか。

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 わずかな距離ではあるが、藪をかき分け進み、15:57に人吉城城址原城跡)に到着した。城址の大部分は水害のために立ち入り禁止になっていた。わずかに見られるところだけを見せてもらって、16:18に城址の南に建つ元湯に到着した。

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 元湯も2020年7月の水害では大きな被害を受けている。再開なったのはまだ1月ほど前。浴槽一つのシンプルなお湯を楽しませてもらった。

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 元湯でさっぱりした後は、16:57に行動再開し、足湯のある繊月酒造、永国寺をのぞいて、17:16に人吉橋バス停から人吉インター行きのバスに乗車して、行動終了とした。

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2020年10月18日 九州自然歩道 58日目 熊本県球磨郡多良木町ブルートレインたらぎ~人吉市人吉橋 晴れ 気温23/12 距離29.1km 行動時間9:10 43303歩

九州自然歩道 57日目 球磨川源流域から人吉盆地へと下る 熊本県球磨郡水上村湯山温泉~球磨郡多良木町ブルートレインたらぎ 2020年10月17日

 本日は熊本県南部の球磨川源流域の湯山温泉からのトレッキング再開。今朝、福岡の自宅からは地下鉄、新幹線、高速バス、コミュニティバス、ローカルバスと5時間以上かけて乗り継いで、10:36にトレッキング開始地点に到着した。

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ようやくトレッキング再開地点に到着

 前回は五木村から白蔵峠を超えて球磨川源流域を目指したのだが、通行止めに阻まれて、本来の九州自然歩道のコースを30km近くショートカットして湯前(ゆのまえ)駅まで歩いている。今回は、未踏破のコースをなるべく短くすべく、湯前駅から未踏部分の九州自然歩道をバスで可能な限り遡ってから歩くことにした。

 人吉駅からローカルバスで1時間ほどかけてたどり着いた終点のバス停の名前が市房山登山口。あいにくの雨で、美しい独立峰の市房山(標高1722m)は今日はまったく見えない。晴れていたら登ってみたかったのだが、2019年7月の豪雨のために登山路が壊滅的な状況で、入山禁止になっている。バス停で雨具を装着して、湯前方面に向けて行動を開始した。

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正面に市房山が見えるはずなのだが

 湯山温泉は落ち着いた温泉の町。いくつかの温泉旅館と民宿、製材所、わずかな商店がある。町のメインストリートは石畳となっており、温泉町の雰囲気を醸し出している。

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 温泉街を過ぎると、九州自然歩道は国道338号線に合流する。にわかにダンプカーの往来が激しくなる。球磨川の水を湛えた市房ダム湖の上流部分に差し掛かるが、国道は無事なのだが、脇道には大きな崩落部分が見える。しきりに行き来するダンプカーは、さらに上流の道路工事のためだろうなと思いつつ、下流に向かって進む。

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 11:20に球磨川に架かるつり橋が見えてきた。橋長は100mを超えるような木製の本格的なつり橋だ。水輝橋という名で、風に吹かれて揺れて心地よい。橋の上からの景色は良いはずだが、あいにくの雨でいま一つの状態。河岸には木材がかなり堆積している。

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 つり橋を過ぎたところに弁当屋があり、昼食を食べながらしばらく休憩。その後はゆっくりと、緑色の水を湛えた雨の市房ダム湖の眺めを楽しみながら歩いた。

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 市房ダムのダム体には12:30に到着した。晴れていれば、正面に市房山が見えるであろうが残念。雲の切れ間に、ほんのわずかだけ頂上部分が見え隠れしている。

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市房山がわずかに見える

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 ダムからしばらく下っていくと、奥球磨ループ橋が見えてきた。標高差100mほどのスイッチバックを回避するために造られたのであろう360°のループ橋。村のシンボルのようで、展望台まで作られている。このあたり一帯は桜の名所のよう。

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 13:00を過ぎたあたりで、国道338号線沿いの村の中心地を過ぎて2kmほどの高橋集落で国道を左に折れ、球磨川を渡る。幸野ダムという小規模のダムが水を湛えている。

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水上村役場 ループ橋のすぐ下にある

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幸野ダム

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 幸野ダムからは球磨川の南岸を進むことになる。幸野ダムは取水口になっているようで道路に並行して水路が走っている。面白いことに、この水路は上部が覆われたパイプラインのような構造となって続いている。ところどころ側面を石垣で補強している。上部が開いた水路に天井を付けたわけではないと思われるので、土管のようなシールドを連結して作った水路なのだろうか。どこにも案内板がないが、構造や由来が気になる。

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幸野ダムから水路が始まる

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道路に沿って水路が続く

 13:52にトンネル構造の水路が水門から解放された部分にようやくたどり着いた。ここからはいくつかの方面に分岐して配水されているようだ。

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2kmほど進んだここでようやく水面が顔を出す

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 このあたりから九州自然歩道は右に折れる。しばらく進むと石段の先に鳥居が見える。石段を上がってみると、よく手入れされた里宮神社だった。市房神社の下宮のようだ。かつては湯前城が置かれたとされている。このあたりで雨が止んできたため、雨具を脱いでザックに片付けた。

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 ここからしばらくは、畑の中に家が点在するのんびりした歩道を歩き、14:30に湯前駅前のレストランの徳丸に到着した。ここには前回も訪れており、有名なチャンポンを頂いたが、今回はソース焼きそばの昼食とした。こちらはちゃんぽんほど洗練されてはいなかった。

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 昼食の後、15:00に行動再開し、九州自然歩道に戻る。刈り取りまつばかりの水田を眺めながら進み、県道33号線人吉水上線に合流した。

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球磨川を渡る

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 15:26に猫寺として知られる生善院観音に到着した。なんとものんびりした雰囲気の寺だが、由来を読んでみたらずいぶん通称とは異なることに驚かされた。

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猫寺

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 この先は多良木町に入る。県道の交通量はそれほど多くなく、のんびりと歩くことができる。球磨川に沿って、刈り取りを終えた水田を眺めながら下流に向かって進む。

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 16:10に青蓮(しょうれん)寺に到着。阿弥陀堂の茅葺が見事。

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青蓮寺阿弥陀堂

 この先は狭い街道路に沿って民家が並ぶ。ときおりダンプカーが通るが、軒先をかすめるようにして通過する。

 民家の間にりっぱな石蔵が見えたので覗いてみた。多良木町埋蔵文化財センターだった。地元の発掘物や相良藩の古文書などを展示している。石蔵がとても立派。キュレーターの方に聞いてみたら、昭和初期に建てられた農協の米の貯蔵庫だとのこと。このあたりは良田が多く、各所に貯蔵用の石蔵があるとのこと。

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 家並みを抜けたあたりが里城(さとんじょう)。ここから里の城大橋を渡って、球磨川を越える。多良木の中心地が見えてきた。

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 2kmほど歩き、17:30にくま川鉄道多良木駅に隣接した宿泊施設ブルートレインたらぎに到着した。ここは、かつて国鉄が運行していたブルートレインをそのまま宿泊施設として利用したもの。機材ははやぶさ。40年ぐらい前に乗った気がする。今日はいい夢が見られそうだ。

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2020年10月17日 九州自然歩道 58日目 熊本県球磨郡水上村湯山温泉~球磨郡多良木町ブルートレインたらぎ 雨のち曇り 気温15/8 距離20.6km 行動時間7:02 36742歩

九州自然歩道 56日目 通行止めの球磨川源流域を迂回 熊本県球磨郡水上村白蔵越~湯前町湯前駅 2020年10月4日

 本日は五木村水上村の境界である白蔵越から、2kmほど小川内川に向かって谷を下った地点からのスタート。本来、九州自然歩道は白蔵越よりも5kmほど北の白蔵峠を通過して球磨川源流域に進むのだが、白蔵峠、球磨川源流域ともに通行止めの情報により、昨日の時点で白蔵峠の10kmほど手前から迂回路を巡り巡って白蔵越までたどり着いている。

 昨夜は、白蔵越を過ぎて水上村に入って2kmぐらいの地点の、杉の植林のために整備された林道脇の草地で一夜を過ごした。虫の音が子守唄のように一晩耳元で鳴ってくれていた。

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 本日の目標とするのは、九州自然歩道上にある、くま川鉄道湯前駅。非常に残念なことに本年7月の豪雨災害のためにくま川鉄道は運行を休止しており、鉄道を利用することはできない。くま川鉄道は前身が国鉄湯前線の、戦前から営業している歴史のある路線。未乗区間だっただけに残念だが、それ以上に月曜からの仕事のために福岡に帰らなければならない私にとって運行休止は切実な問題。ようやく最近、くま川鉄道はバスによる代替運行を始めたようだが、定期券利用者のみ利用可能で、かつ平日のみの運行というかなり渋い対応。同区間を1日4便ほど運行する他社のバスの時間に間に合わせるしかない。

 テントの中で6:00に起床したが、まだ谷間には日は差してこない。近くの水場で歯を磨き、顔を洗う。冷たい水で顔を洗うと、朝の気分は大分違う。テントを撤収していると、山の上の方から1発の銃声が響いてきた。2分ほど間を置いて2発目の銃声が聞こえた。どうやら仕留めたようだなと思いながら、日が差し込んできた6:47に行動を開始した。

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山から流れる冷たい水で顔を洗う

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周囲が明るくなって行動開始

 晴れた日の山の朝には素晴らしい光景が見られる。今朝は、谷間に漂う細かな水滴に朝日が散乱して薄紅色に染まった山々を見ることができた。写真ではその質感を伝えられないのが残念。だれか一緒に歩いてみませんか?と言いたくなるぐらい美しい朝がある。

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九州山地の朝

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 野営地からは、ほどほどに整備された林道を下る。植林されたスギの周囲の下草は丁寧に刈られており、この林道が林業のために活用されていること、山が大切に育てられていることがよくわかる。周囲の山を見渡すと、針葉樹の収穫を終えたばかりの区画や、幼木を植えたばかりの区画、40年は生育したであろう立派なスギの育った区画などが見事に管理されていることがわかる。球磨地区の山林の手入れで気づいたのが、北側の枝は丁寧に払ってあるのに対して、南側の枝は落としていないところが目立つこと。一般には下枝が成長すると節目を形成するので、柾目を良しとする針葉樹では全周を丁寧に落とすかと思っていたので、不思議に感じる。林業関係者に尋ねてみたい質問項目とした。

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林道の整備状況は良好

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南側の下枝が払われていないのが目立つ

 そんなことを考えながら林道を下っていると、白い軽トラックが山の上から降りてきた。通り過ぎるときにチラリと見えた荷台には、首から血を流したシカが横たわっていた。さっきの銃声の標的がこれだったのかと分かる。

 ここから先の林道は地図には記載されていなかったが、問題なく通行できた。8:00に林道は谷底を走っている県道161号線に合流した。ここは地図上では4軒ほどの家の集まる水洗集落であるが、居住者はいないようだった。県道161号線は昨日、五木村の竹の川から下梶原川を上流に向かって走行していた道路と同じ番号。峠を越えてふたたび復活しているが、地図では峠の手前で消えており、峠を越えた谷で記載が始まり、連続してはいない。どこから復活したのか遡って見てみたい気もしたが、今日はやめておいた。

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もう一度歩きたいと思わせるほど快適な林道

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県道161号線に合流

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荒スゲ谷川に沿って進む

 舗装路を球磨川の源流の一つの荒スゲ谷川に沿って下る。この川も透明度が高い。少し深さのあるところは緑色に見える。そんなところには大きなヤマメが隠れているような気がする。紅葉が始まったばかりのカエデもちらほら見られ、あと1月もすれば渓流を美しく染めているだろうなと思われた。

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 9:00に数軒の手入れの良い庭を持った家の集まる坂下集落に到達した。ここでは川の畔に座って、ビスケットの朝食をとった。今回は予期しない長距離の迂回も覚悟していたため、荷物を軽くするためにコンロを積んでいない。残念ながら、朝のコーヒーを楽しむことはできない。

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坂下集落

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川縁で朝食

 このあたりから川の名称は小川内川に変わっている。しばらく川に沿った道をのんびりと歩く。このあたりの田んぼは、稲の収穫を終えて、はざ掛けをしているところがある。今どき手のかかるはざ掛けでの天日干しは珍しいだろうなと思ったら、無人販売所に新米が置いてあった。1.5kgとずっしり重いが、迷わず購入した。おそらく目の前の田んぼで収穫したはざ掛け米。自分の目で確かめたはざ掛けの、その新米を食べるという贅沢はなかなかできない。

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収穫を終えた田も目立ちはじめた

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はざ掛けで天日乾燥している稲

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無人販売所を覗いてみる

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おそらく目の前の田んぼで収穫された米 買うしかない

 そこから1kmほど歩いたところに水上村の街並みが現れた。水が良いからだろう。酒造所もある。家の建ち並ぶ町では、自転車で通りかかった中学生と思しき集団が元気よく挨拶してくれる。正しい日本の姿を見たようで、こちらの背筋も伸びる。

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水上村の市街地に入る

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メインストリートで中学生と挨拶を交わす

 診療所や小学校の並ぶ通りを抜け、球磨川にかかる橋を渡る。橋の下の球磨川は、川辺川と同じく美しい緑色の水に牛乳をこぼしてしまったような色調。きっと上流の石灰岩質のところを激流が削った結果なのだろう。東の方には市房山の堂々とした山が聳えている。

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水上村の診療所

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村立小学校のデザインも素敵だ

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球磨川は独特な色合い

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東の方角には霊山市房山が聳える

 球磨川を渡ると、湯前(ゆのまえ)町に入る。時計のある通りを過ぎ、湯前駅に到着した。湯前駅をターミナルとするくま川鉄道は、2020年7月豪雨で甚大な被害を受け運休中。線路は赤く錆び付いていた。

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湯前町のメインストリートに立つ時計台

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現在運行を休止しているくま川鉄道湯前駅

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赤く錆びた線路が悲しい

 駅からすぐそばの、歴史のありそうな商工会館の前を通り、湯前まんが美術館を覗いてみようと行ってみたが、ここも7月豪雨の被害を受けたようで現在休館中。11:30にふたたび湯前駅に戻って、湯前ではとびきり有名な徳丸のチャンポンを食べるために行列に並んで、本日の行動終了とした。 

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湯前商工会館

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湯前まんが美術館

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満員の徳丸に並んでちゃんぽんの昼食

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2020年10月4日 九州自然歩道 57日目 熊本県球磨郡水上村白蔵越~湯前町湯前駅 晴れ 気温27/9 距離17.1km 行動時間4:43 平均速度4.3km/h 23988歩

九州自然歩道 55日目 標高1000mの心地よい林道を歩く 熊本県球磨郡五木村頭地~水上村白蔵越 2020年10月3日

 金曜日の昨夜は熊本県人吉市に前泊した。現在トレッキングしているのは九州山地の中になるため、まずはトレッキング再開地に到着するのが一苦労。今朝は前泊した人吉のホテルを6:00に出て、人吉駅から7:02の五木村行きの数少ないバスに乗った。標高1000m近い山々から川辺川に見事なV字を形成した谷の東岸をバスは走り、8:00に五木村頭地に到着した。天気は快晴。気温は22℃。最高のコンディションだ。

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五木村の中心地 頭地

 五木村からは国道445号線を川辺川に沿って北上する。先週は上流から歩いた道だが、何度歩いても美しい渓谷だ。ここがダム湖に沈むのは残酷だ。トンネルを抜け、つり橋を右手に眺め、9:00に4.3km先の竹の川に到着した。ここが先週、九州自然歩道から離脱した地点。竹の川から県道161号線に右折して下梶原川に沿って東に進む。

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五木村から川辺川に沿って上流に向かって歩く

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道路からずいぶん下を川辺川が流れる

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トンネルを抜け

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つり橋を右手に見て

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川辺川に右側から下梶原川が合流する竹の川が前回の離脱地点

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今日は右折して下梶原川を上流に向かう

 下梶原川はヤマメのキャッチアンドリリース制限をしている珍しい川。キャッチアンドリリースとは、釣った魚を持ち帰らずに、そのまま逃がすスポーツフィッシングに特化した釣りの楽しみ方。少ない傷で魚を針から外すことができる、返しのない針を使う。しかもルアー、フライのみで、エサ釣りは禁止。魚とのだまし合いに限定しているわけだ。このあたりには、観光にスポーツフィッシングを導入した先駆者がいるようだ。それにしても透明度の高い川だ。川辺川もきれいだったが、乳白色の濁りが特徴的だった。これに対して、下梶原川は透明度が極めて高く、水中の石が一つ一つ数えられるほど。

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キャッチアンドリリース(C&R)の案内表示

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透明度の高い下梶原川

 30分ほど舗装路を歩くと、三浦の集落を通過した。対岸の山に石灰岩の岩肌が見え、その真ん中に穴が開いている。天狗岩という名だと解説する看板が設置してある。時間があったらこの穴の中を覗いてみたい気もするが、どうも簡単にそこに行ける道はなさそうだ。

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三浦集落の対岸にある天狗岩

 道路沿いには水力発電所が現れた。この地域一帯には水力発電所が多い。このあたりの水力発電は、大型のダムを利用したものではなく、川の上流の取水口から、下流に送水管で送って発電に使うもののようで、規模は小さいようだ。川の様相が大きく変わることがなく、好感を感じる。

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原発電所

 さらに20分ほど歩くと蛍の里という民宿が現れた。竹の川で看板を見かけた民宿だ。川べりに建つワイルドな趣のある民宿だが、営業中の札がかかっているので覗いてみることにした。時間が少し早いが、イノシシ肉のランチもいいかと思ったからだ。しかし、ここのところしばらく営業はしていないとのこと。残念ながら先に進む。

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民宿蛍の里 残念ながら休業中

 さらに下梶原川の上流に向かって舗装路が続く。右手につり橋が見えてきた。小原(こばる)橋という50mほどの長さのつり橋だ。対岸に家は見えないが、かつては住む人がいたのか、それとも里山の管理にでも使うのだろうか。とりあえず、つり橋を見かけたら渡ることにしている。橋の上からの眺めは最高だった。

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小原橋

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橋の上からの景色は最高

 10:34に本日10km地点の一の股橋に到着した。ここで橋を渡ったら日当方面に向かう大規模林道に分岐しているが、林道は通行止めとなっていた。小休止の後、九州自然歩道のコースに従って、さらに上流に歩く。

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五木村から歩いて10km地点の一の股橋

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さらに上流に向かって進む

 幸いこれまでのところ、舗装された道路にはそれほどひどい崩落個所はなく、歩きにくいようなところはない。ほとんど自動車の通行もなく快適に歩くことができる。山はどんどん深くなる。谷底まで太陽の光が届き、暖かくなってきた。ポツンと現れた民家の傍には、シイタケの圃場とソバの畑があった。

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スクリーンで囲まれたシイタケの圃場とソバ畑

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さらに山が続く

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ときどきこんなところがある

 12:00に下梶原の集落に到着した。ここには直進方向通行止めの大きな看板が立てかけてある。事前に現地に電話で確認したところ、九州自然歩道の進むこの先の峠は歩いても越せない状況で、さらに峠を超えた先の球磨川上流部は豪雨による被害が大きく、入山禁止になっているとのこと。やむなく、ここから大きく迂回して日当に向かい、林道を経由して九州自然歩道に復帰可能なところまで進むこととした。

 数軒の家からなる下梶原集落で橋を渡り、今度は下流に向かって西に方向を変えた後、スイッチバックを繰り返して山の上に向かう。正面に美しい山が見えてきた。おそらく高塚山だ。スギとヒノキの植林の中を高度を上げながら進み、13:10に標高867mの峠に着いた。

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まずは下梶原川を右手に見ながら下流に向かう

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分岐部でスイッチバックし、傾斜のきつい林道に入った

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さらにスイッチバックしながら高度を上げていく

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正面には高塚山が見えてきた

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杉林を抜けたら峠

 車がまったく通らない舗装路の真ん中に寝転がって休憩。空の青さが目に沁みるほどきれいだ。気温は22℃。心地よい風が左から吹く。葉のこすれあう音以外は何も聞こえない。

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峠に寝転がって見上げた空の色が、沁みた

 峠から林道は2つに分かれる。一つは頂上の標高が1200mほどの無名の山の北を回って広域林道に出るコースで、5kmほどと距離は短いが2か所の谷をアップダウンする。もう一つは同じ山の南を通るコースで、最初に200mほど登って標高1000mに到達した後は、等高線3本程度(30m)を上下するだけのほとんど平坦なコースだが、距離は北回りの2倍以上ある。ここまでの行程を振り返ると、沢のあるような深い谷では道路の崩落が生じている可能性が高い。今回は道路の崩落のリスクが少なそうな南大回りコースを選択した。

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峠から南回りの距離の長いコースを選択

 南回りコースは未舗装だがよく整備された広い林道だった。人の手がしっかり入った杉の植林があるので、林業に活用されている道路なのだろう。自動車の轍もくっきりとついている。標高が1000mとなったところで厳しいアップダウンはなくなり、日当たりの良い快適な林道が続く。

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未舗装だが広い林道、両側にネットが張ってある

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標高1000mの快適な林道 ここにもネット

 林道の道路脇には黒いネットを張ってある。歩行者の転落防止のためではないだろう。おそらくシカが新芽を食べたり樹皮を剥ぐのを防ぐためのネットだろう。

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景色も良好

 しばらく歩いたところで道路の大きな崩落個所があった。ここから急に道路が荒れ始めた。崩落個所から先はしばらく自動車が入っていないからだろう。それでもたいして歩きにくいわけではない。ときどき木を跨げばよい程度だ。

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この程度は何ということはない

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時には崩落個所も

 気持ちよく林道を歩いていたら、ほんの20mほど先にシカが見え、すぐに斜面の下に走って逃げた。お尻の白いマークが印象的。まだ小さなシカで、食事に集中したあまり、私の足音に気が付かなかったようだ。珍しいことに斜面の下からこちらを観察している。道路が崩落した後は人があまり入っていないため、人を珍しく思ったのだろうか。写真に収めることができたのは珍しい。しばらくこちらをじっと見て、踵を返して逃げていった。その後しばらくは、谷では複数のシカが高い声の警告音を鳴らしていた。

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こちらをじっと見つめるシカ こんな近くで立ち止まるのは珍しい

 15:30にりっぱな舗装路の広域林道に合流した。ここまで歩いた距離は22.9km。現在の標高は1122m。南回りの林道で正解だったかもしれない。崩落個所はあったものの、それほど苦労せずに通過できたから。

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舗装された広域林道に合流

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道路脇にはアケビが成っていた

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 舗装路を1kmほど歩いて、16:05に白蔵越の峠に到着した。ここから舗装路を離れ、五木村から水上村に向かう林道に入る。林道の整備状況は良好。正面には市房山が見えてきた。立派な山だ。

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白蔵越に到着

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奥の尖った山が市房山

 このあたりの山の手入れは非常に良い。しばらく林道を歩き、高度が900mを切った辺りで、林道わきに心地よさそうな草地を見つけた。16:46と少し早めだが、谷間ではすでに日が落ちている。草地の小石や杉の枯れ枝をどけて整地し、テントの設営を開始した。

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2020年10月3日 九州自然歩道 56日目 熊本県球磨郡五木村頭地~水上村白蔵越 晴れ 気温22/9 距離26.0km 行動時間8:46 平均速度3.7km/h 40964歩

往路交通:

博多19:04九州新幹線新八代19:58/20:06B&S高速バス-人吉IC20:43 (人吉市前泊)

人吉駅前7:02九州産交バス五木村頭地7:59

九州自然歩道 54日目 清流川辺川を眺めながら子守唄の里へ 熊本県八代市泉町仁田尾(五家荘)~球磨郡五木村頭地 2020年9月27日

 昨夜は五家荘の集落の一つ、仁田尾(にたお)のはずれにテントを設営した。標高は834mあったが、それほど冷え込みはなく、夏用のシュラフで心地よく眠ることができた。谷が深いため陽光が差し込まず、まだ暗かったが、6:00に起床して撤収作業を始めた。今日はバス停まで25kmほどあり、しかもそのバスは1日4便ほどしかないため、早めに行動することとして6:35には行動開始。歩き始めるころに、ようやく山の端を太陽の光が照らし始めた。

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 行動を始めてすぐにヒゲのおじいさんがウォーキングしているところに遭遇した。挨拶を交わすと、「観光ですか?」と尋ねられた。「観光です」と答えると、「以前、この辺りは秘境とか言われていたけど、今ではこんなにひらけてしまって」との返事。いいや、今でも十分に秘境ですと思いながらも、「ずっとこちらにお住まいですか?」と尋ねると、「お父さんが京都から引っ越してきた。」とのこと。「おじいさんは大宰府で亡くなったけど。」と続く。「ひょっとしたら、おじいさんって、道真(みちざね)さん?」と恐る恐る尋ねてみたら、「そう、わしが49代目。」と返事が来てビックリした。

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 聞けば、このおじいさん、仁田尾の左座(ぞうざ)家の49代目当主。菅原道真大宰府で亡くなった後、政敵の藤原家に血脈を絶たれることを恐れた長男は、五家荘の仁田尾に逃れて左座太郎を名乗り、初代の左座家の当主となったとのこと。今話している目の前の方が49代目。千年近く前の菅原道真のことを、数年前に亡くなったおじいさんのように語る。道真の次男の方は、菅次郎を名乗って、同じ五家荘の樅木に逃げたとのこと。菅家がまだ続いているかどうかは聞き忘れてしまった。

 五家荘は平家の落人集落だと思っていたが、5つの集落のうち仁田尾、樅木の2つは菅原道真の子孫によって作られ、椎原、久連子、葉木が平家の集落だということも初めて知った。今日は、この秘境がなぜ千年続いたか理解できた。血脈を絶やさないために、徹底的に親から子への伝承があったのだろう。49代を経てなお、おじいさんは大宰府で亡くなった、おとうさんが京都から引っ越してきたと、千年近く前のことをついこの間のことのように口から出てくる当主の言葉を聞けば、それと知れる。

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 49代目と別れた後は、6km先の椎原に向けてどんどん高度を下げていく。頭の上を水力発電の送水管が越えていく。内大臣峡もそうだったが、九州の脊梁山脈に近いこの地は降水量が多く、水力発電の適地として利用されている。

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頭上を水力発電の送水管が走行する

 稜線はところどころ岩となっており、容易に越えることができない。トンネルをくぐって北向きの谷になると再び太陽の光は差し込まなくなる。谷底からは雲が湧いてくる。谷底には川辺川(かわべがわ)の流れが見えるようになってきた。

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トンネルをくぐると

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再び暗い谷

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雲がここで作られるかのような谷

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遥か下に川辺川が流れる

 脊梁山地に降る雨のため、この地には土砂災害が多い。急な斜面はコンクリートで固められたり、金網で保護されたりしているが、最近、大量の落石があったためか、ところどころガードレールが変形して、今なお難所であることがうかがわれる。

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 さらに高度を下げると、川辺川の水面が近づいてきた。しかし、豊富な水量の川辺川はなかなか超える場所がない。川が見え始めてから1kmほども上流に遡行して、ようやく川辺川をまたぐ桂橋を越えて対岸に渡ることができた。桂橋の標高は473m。今朝出発した仁田尾の標高は834mあったから、400m近く高度を下げたことになる。橋の上から眺める川辺川は、急流が岩を削るためか、水が白く見える。濁った水とは異なる。ミルクを流したような色なのだ。

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ここまで高度を落とすがまだ橋は架からない

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ようやく川辺川を渡る

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ここまで歩いてきた道が山肌を斜めに走る

 ここから1kmほど対岸の道を上り、昨日、大金峰への登山口に向かうために分かれた国道445号線に復帰し、8:00に五家荘の平家の里である椎原の市街地に到着した。

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椎原の中心地

 椎原は平家の落人伝説で知られるが、20軒ぐらいの家屋の集まった小さな集落。ほんの少しの商店と生徒のいなくなってしまった小学校がある。小学校は、現在は観光案内所として活用されているよう。

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現在は生徒のいない小学校

 8:00をすぎて椎原のある谷底にも太陽の光が届き始めた。川辺川に沿って下流に進み、8:30に椎原ダムという小規模なダムに到着した。ダムの水もミルクを流したようにうっすらと白い。川がすぐそばまで迫ったこのあたりの道路は岩を削って作った道で、道幅が狭く、この先500mに離合場所というとんでもない表示もある。

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椎原ダム

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この先500m離合できず

 川辺川の北岸と南岸の両側に道路がつけられているが、どちらかの道路が崩落のために通行できない状態になってところも多い。国道445号線は北岸から南岸に、南岸から北岸へと橋を渡り、ジグザグに下流に向かって進んでいく。その橋自体も、仮設の橋かと思われるものが時折現れる。

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対岸は通行不可

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これは仮設の橋か?

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 道路の状況にはやや不安があるが、道路の横に流れる川辺川の様子はとても美しい。しばらく川辺川の北岸を通る九州自然歩道を歩いていると、その先の歩道は土砂崩れで進むことができない状態になっていた。やむなく仮設橋のあたりまで戻り、南岸を進む国道445号線下流に進むこととした。

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いきなり通行止め

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橋を渡って九州自然歩道から国道に戻る

 南岸を進む国道は、緩いカーブを描く橋を越えて北岸にわたり、そのまま五家荘トンネルに続く。五家荘トンネルは長さ640mのトンネル。通行する自動車はほとんどなく、気持ちよく真ん中を歩いて進む。

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カーブした橋を渡り五家荘トンネルの中に入る

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長大なトンネルを独り占め

 五家荘トンネルを抜けた後、道路は五木村に入る。トンネルを出てからはしばらく日当たりの良い北岸の道を進む。川辺川からはかなり高い位置に道路は取り付けてある。トンネルの先は橋となっているが、この橋は川を渡らない橋。北岸の傾斜地には十分な広さを持った道路が取り付けられないため、橋脚を設置して北岸に沿うような道路が取り付けてある。

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日当たりの良い北岸

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川を渡らない橋が続く

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遥か下に川辺川

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一人で歩くのがもったいないほど美しい山、川、道、空

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川の色がとろけるように美しい

 橋の名に気を付けて見てみると、宮の首谷川橋なるちょっと薄気味悪い名前の橋もある。かつてここで何があったのだろうかと想像してしまう。道路の高度が下がり、川が近づいてきた。また、水力発電所を通り過ぎる。

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宮首谷川

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 北岸から南岸への橋を渡ったところの宮園の集落には11:25に到着。ここでは集落のすぐそばを川辺川が流れている。宮園集落には樹齢500年といわれる大きな公孫樹の木がある。雄株のため銀杏の実は付けていない。この木の下にベンチがあったため、しばらく小休止とした。宮園には久しぶりに小売店があったが、日曜は営業していないようであった。

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宮園集落

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樹齢500年の公孫樹

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残念ながら休日はお休み

 11:10に行動を再開し、川辺川のすぐ横を歩く。1kmほど進んだところに、対岸の鶴集落への吊り橋があったため、用もないのに渡ってみた。川から吹いてくる風が心地よかった。

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吊り橋の上から上流を眺める

 その先は、川辺川の取水のための堰堤や、岩を刻みながら流れる川の景色を楽しみながらゆっくりと歩を進めた。

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 11:55に川辺川が南から流れてくる梶原川と合流する竹の川集落に到着した。九州自然歩道はここから南に梶原川の上流に進むが、今回はここで九州自然歩道を離れ、バス停のある4km先の五木村に向かう。

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竹の川集落

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川辺川(右)と梶原川(左)が合流する

 しばらくは川面に近い道路を進むが、橋を渡り、北岸を進むようになると、路面の状態の整った規格の良い道路に変わる。トンネルを超え、新しい橋梁の建設が行われている。川辺川はずいぶん下方に見えるようになってきた。ここは川辺川ダムの建設が進んでいたら水没する予定のところだったのかなと思いながら進む。

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残念ながらこの吊り橋は通行禁止

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建設中の橋

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川辺川は遥か眼下に

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 川辺川がはるか下に見える椿橋を渡る。五木村の中心になる頭地地区はもうすぐだ。カーブを曲がると新しく大きな橋が見えてきた。橋の下にはいくつかの家が残っているが、ほとんどの住居は高台に移った後のようだ。川辺川ダムは建設の是非をめぐり長い間揉めてきたが、現在は中止の方向になっているかと思ったが、これから先はどうなるだろう。

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椿橋を渡ると五木村の中心地はもうすぐ

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五木村の家々が見えてきた

 13:20に五木村頭地に到着した。五木村は五木の子守歌で知られている。数年前にできたばかりの頭地大橋を往復し、川辺川の両岸にあったはずの住居が移転した跡地を上から眺める。その後に、五木阿蘇神社、村役場、道の駅などを見学し、13:50に温泉施設に到着した。バスの時間まで3時間ほどある。間に合ってよかった。温泉施設で汚れを落とし、ゆっくりすることとした。

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頭地大橋

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川沿いの家々はすでにほとんど転居を済ませたよう

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橋の中央にはバンジージャンプの施設がある

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五木阿蘇神社

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道の駅

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眺めの良い露天風呂

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2020年9月27日 九州自然歩道 55日目 熊本県八代市泉町仁田尾(五家荘)~球磨郡五木村頭地 晴れ 気温26/9 距離24.3km 行動時間7:16 平均速度3.7km/h 34648歩

復路交通:

五木村頭地16:45九産バス-人吉郵便局前17:39/人吉IC17:55西鉄高速バススーパーフェニックスー博多BT20:32